456.カワウソにだまされた

末坂    坂井  久松

  母ちやんが産気づいて、産婆さんを呼びに行くことになって、夜道を隣の兄んかに行ってもろうがになった。提灯を持って行けばカワウソにだまされる心配もないさかいちゅうて、一本橋を渡ってたんぽ道の先にあるが産婆の家やさかいにわかりやすいけど、年寄りの人は、あの一本橋の川に、カワウソがおってだますことを知っとるもんで、行くのを嫌がって行かなんだもんや。
  兄んさまが出かけたのやが、一本橋まで来たところが、提灯が消えてしもうたぎ。そんときポチャンちゅう音がしたもんで、さあいよいよカワウソがきたじゃと思うたら、またポチャンちゅう音がした。提灯の火が消えたし、真っ暗ながとで道をまちがいて田んぽ道へ入ってしもうて、どれだけ行っても、産婆の家がないし、田んぽへかやって泥だらけになるし、まだまだかと思うて歩いとると、後の方に水音がするもんでカワウソがついとるようで心細くなった。滑ったり、転んだりしておるうちに夜が白々としてきたもんで、こりや大変やと思うて、こりや一遍家へ戻らにやと思って帰ってきたら、オギア、オギァちゅうて生まれとったとい。
  その家では「あんまり遅いもんで、他の人を頼んで産婆に来てもろたわい」と言われたとい。

「類話」1

カワウソにだまされた

黒氏    平野  すず子

  夜さり末坂から武部まで、女工さん迎えにドスが原を通ったげと。そんときにだまされて、もう西も東もないがどこへ行けやいいやらわからんがになって、とほどほと歩いとったら、足や冷たいがにびっくりしたぎと。もう川の中を歩いとったげと。吹雪いとっし、川の中へ入ってもうとるわ、そして姿は見えねどバチャバチャちゅう音がして逃げていったと。ドスが原ちゅうところあ恐ろしい所やて聞いとったけど、本当に恐ろしいめに会うたといね。

「類話」2

川上堤のカワウソ

一青    細川 助次

  羽坂へ祭りに行って、帰りによばれたごっつぉを重に詰めてもろて帰ってきたげちゃ。あっこは一青の宮の森やと思うて歩いてきたげやが、どんだけ行っても一青へこんげちゃ。カブソにだまされて、一晩中田んぽのまわりを、ぐるぐる回っていて、夜が明けたら重のごっつつぉが何もなかった。

「類話」3

カワウソにだまされた話

新庄    岡峰  ヒデ子

  おっちゃちの隣の坂井さんの爺ちやんが、どこか白馬やったかの祭りによばれて、夜道を独りごっつぉ持って、いい機嫌でふらふらと歩いてきたげと。油揚げかなんか持っとったら、その臭いをかぎつけたカワウソがだましたげろ、自分が酔うとったが、気がついたら川の中へ落ちて泳いどったと。おら知らんがに、どうしてこんなことしとるげな、カワウソにやられたげなとやっとわかった。ごっつぉみんなとられてしもうて、ずぶ濡れになってうちへ帰ったと。白馬のとこの川気つけにゃ。

「類話」4

カワウソが化けた

一青    川縁  春江

  昔、ここらあたりに医者がおらんじやったわいね。三階まで薬をもらいに行ってこいと言われて、冬の寒い日やったわいね、本当に恐ろしい思いをしたことがあるわいね。道の真ん中にスラッとした大男が、黒いマントを着て、高足駄はいて帽子をかぶって、顔はわからんがにして立っとるげね。 小さい子供のときで、ただでさえ恐ろしいがに、そばへ来てかかって「どっか高足駄をはいたもんに出会わなんだか」といわれてね。恐ろして恐ろして、返事もしんと逃げてきたわいね。

「類語」5

カワウソにだまされた

春木    北原  末吉

  シンクロサの家のあたりでだまかさって、どうにもこうにも前へ進まれんがになってしもうたもんで、まらでもないと思うて、タバコだいて一服吸うたら、そしたら、マッチに恐ろしかったがか、タバコの煙がやあかったがか、カワウソあ逃げてったもんか、自分の行く道が見えてきたと。後から気がついたら、持っとった油揚げやないがになってもうとった。

「類話」6

カワウソにだまされる

廿九日    北原 栄古

  昔、川田の川にカワウソがおって人をよくだまかいたぎいといね。川田へ祭りに行ってごちそうになって、帰りに自転車の後へごちそうの余ったがをいただいてつけて帰るぎやね。
  カワウソは豆腐や油揚げはどうやしらんけれど、お魚を好きながで、祭りの帰りに自転車の後がなんじゃら重たいな、重たいなと思うて後を見てもなんもおらんし、そいから下りて見たれども誰んも引っ張とるようなふうもないし、それからまた自転車に乗って行くぎやれども、また下りて見るぎやが、お酒を飲んでの帰りやし酔うとるもんで、それがカワウソやと思わなんだもんじゃさかい、また、自転車に乗って戻ったら、家へ帰ったら自転車の後のお魚がないがになっとったちゅう、話を聞いとるわいね。

(類話)

廿九日   守山  永一・亀野  ヨシ子    良川     山本  いと

「類話」7

カワウソ

瀬戸     池島  つや

  高畠のお宮さんから下がる所に橋があるわいね。そこにカワウソが出てどうにもならんぎと。正月の初参りにお宮さんへ行く人が夜さりの十二時になると詣ったわいね。
  そんとき橋の上に、でかいともでかい男が立っとるぎといね。あれや人間でないわい、人間ならそんな所に立てらんわいちゅうて、おいそからすかいて見とったら、橋のたもとにカワウソがすくんどったとい。
  そこへ誰れかが鉈を持っとったもんで、放りつけたぎとい。そしたら、キャッキャッキャちゅうてでかい男が倒れたと思ったら、もう姿がなかった。
  橋のたもとにおったが、やっぱりカワウソやったぎと。