454.ムジナにだまされた話

黒氏    中山  こと

  九月ころかね。ある晩のこと大海の上を歩いとるぎて「わしみたい偉いもんなおらんな」ちゅうて歩いとったといね。夜明けたら、そば田を踏み荒いとったと。

「類話」1

ムジナにだまされた

一青    兵部  キクイ

  久江へ火事見舞に行った戻りに、だんだん、だんだん山へ登って行くぎえとね。おかしいな、こんな所に山なかったはずやが、だまかさったかな、と思うて一服したげと。"木なんにょ"へ上がってたばこをのんだら、もうちょっこしで落ちる危ないところやった。マッチの火でムジナは逃げていったがか、そんで出てこなんだが、どこやらわからんとこにおったので、動かんとそこに夜明けるがを待っとったと。

「類話」2

ムジナにだまされた話

一青    土木  ミスイ

  雪の降る日、クザンサの新宅の爺や、どっか行った戻りにだまかされて、桜松の池のところまでつれていかれて、相撲とらされたげと。どんだけしても相手が倒れんげちゃ。体中血だらけになっとったて。夜明けたら杭にしがみついとったと。

「類話」3

ムジナにだまされた

一青    土木  ミスイ

  父とらちや、女郎買いに行って帰ってくるときにや、ドスが原の所に池があるが、あそこは寂しいところやったわいね。あっこまでくると、先になり後になりして、ボトボト、ボトボトと送ってくれるぎといね。おお、きたなと思うて、帯をほどいて歩くと、ムジナが端っこを持ってズラズうと引っ張って歩くぎといね。帯を下げるとそれよりもう先へこなんだといね。そして黒氏と良川の三叉路まできて「たいそやったな」と言うてやると、ほんでついてこなんだと。

(参考)

狢などの俗信

(鹿島郡誌より)

  「狐の一化け狢の七化け」と称し、狢は一種より化け得ざるも化け方の巧妙なること狐のはるかに及ばざる所なりとす。
  猶恐るべき怪方を以て人を脅す獺は大入道となりて人を恐れしむ。 河童は「めいしり」或は「主」と呼び、人を溺れせしめ、臓腑を取食うものと信ぜられる。
  虫類中最も執念深く妖をなすものを蛇とす。
  火葬場には三昧太郎と名づくる大入道の怪物あり、角ばったものにふれるのをこばみ人に背負われんことを望む。三昧太郎は千人の屍を焼きし灰の化生なれば水を渡るを得ず、三昧の周囲に溝を穿つはこれがためなり。