443.火玉を利用した男

末坂    坂井  久松

  小学校の給食室の向いの小山に墓があって、昔、土葬したとこや。今は移されてわからんがになっとるけれど、あそこから羽坂のタナ森(宮様のところ)までよう火玉がいったと。
  夜、田んぼへ水しかけに行くとき一番おとろしいもんな火玉やった
  毎日天気や続いて木ぁなぁて弱っとつたげと。よし今夜こそと思うて夜水しかけに行けや下のもんがあてとってどうもならなんだと。
 そこで考えたのが火玉やった。火玉で下のやつをおどかいて水しかけることを考えた。ボットに油しまいて、それに火をつけて、それ肩んであっち、こっち走ったるいたげと。とうと、その晩は誰も恐ろしがってうちへ行ってしもて出てこなんだもんで、乾いた田んぼにたっぷり水をしかけることができたと。火玉のお陰でうまいことしたと。

(参考)

幽霊、人魂(火玉)の俗信

(鹿島郡誌より)

  幽霊、人魂(人魂)は冥界に属するものなるを似て、人の最も怖るるところなるが、人魂を見たりというもの甚だ多く、風なまぐさき小雨の真夜中絵画に描けるが如き姿の幽霊に出逢い而もその稚なりしかを明かにせしというものもあり。嫉妬深き一夫婦が別居の深き悩みより生きながら人魂となりて老夫を苦しめからみ遂に死に至らしめしという怪談は四十五、六年前に於ける鹿西某村の事実として今猶人々の語り草とするところなり。