441.こくぞうぼん

良川    干場  つき

  こくぞうぼんちゅう坊主がおって、ほして前田の殿様から七尾の本田ちゅう所へ嫁に行くいうとったがか、来とったがかしらねど、大事な密書をこくぞうほんがことづかったぎと。それを三階の国造山から大槻のクジラハナちゅうとこの間に落いたったぎとい。
  雨さえ降りや毎日国造山から提灯な出るぎや。おらちや現実に見とるぎゃ。チョロチョロ、チョロチョロて、そのはりつけにおうた地蔵様のあるあそこへ行ってはビチャビチャと消えては、また戻っては、したわいね。私等はそれを子供のころに平気で見とったわいね。
  そして「こくぞうぽん様出たったわ」ちゅうと「そんなら明日雨やな」ちゅうてその雨の準備をしたぞいね。こくぞうぽん様はあの地蔵様の所にはりつけにおうたったぎと。
  こくぞうぼんな出たったかさいにゃ雨ぁ降るぎと。隣へ湯番に湯つかいに行くぎ、そして「お婆、明日雨やわ」ちゅうと「おー、こくぞうぼん様出たったかい」ちゅうと「おん、出たったわ」ちゅうてそんなことを気にせんと話しとったもんやわいね。

(類話)

春木    小谷内  勝二

(参考)

虚空蔵功

(鹿島郡誌より)

  今を去る七百年前、大三階(現東三階の地)に虚空蔵山に虚空蔵山という寺ありしが、幾箇の下寺を有する大寺なりしと。或時小僧が和尚の使いにて満仁の摩尼殿へ書状を持ち行く途中、如何したりけん其の書状を遺し、一夜捜し求めしが遂に見当らず、狂はん計り途方に惑いし小僧は申し訳なしとて哀れにも河に身を投げて果てぬ。其の後春の末より秋の初にかけ、二宮川に沿う高階鳥屋の間、川堤の上をふわりふわりと行きつ戻りつ、草木も眠る丑満つ頃、西三階のあたりにてふっと消失せる一団の怪火あり、こくぞうぼんという。或年の夏屈強の若者数名盆踊りの帰るさい、正体見届け呉れんと川堤に出掛け稲の茂みに忍びしが、気丈者の一人がようように認めしというは裾のあたりは茫乎とせるが、身の丈六、七尺もあらんか蒼白き衣服をつけ稍うつむき勝ちに無限の悲愁と怨恨に悶え苦しむが如き大の男が足早に過ぎ行きしと。こくぞうぼんは此の投身せる小僧の怨霊といい、或は主命を受けたる若黨が途中大切なる状箱を遺失せしため淵に身を投げしが其の怨霊今も状箱は無きやと行きつ戻りつ探し求むるなりともいう。