436.天狗にさらわれる

川田    守山  裕美子

  むかし、タ方向山に玉のような西瓜ほどの大きさの赤いもんが出た。ありや、宮山におる天狗やと言われた。
  きかんことしたり、親には向こうたりすると、あの天狗にさらわれるぞといわれた。うちらも向山に赤い口をあけたもんがおるように見えて、うちへ逃げ込んだもんや。
  あるとき、子供を連れて田んぽへ行って、一生懸命に仕事をしていて、子供を一人遊ばさしておいてんと。子供は誰も遊んでくれんもんで、一人で泥いじりして遊んどったし、親は気にもせんと、そこに遊んどるわいやと思うて仕事をしておった。やがて日暮れになって帰ろうかと思うて、ふとみたら遊んどったはずの子供がおらんげ。そうしたら大騒ぎになって、村中ふれて、みんなに出てもろて子供の名前をさけんで探した。宮山も探いたれどもおらなんだと。泣く泣く帰ったが、夜が明けてまた見に行ったら、昨日あんだけ探いたのにおらなんだ子が、にこにこして崖の所に無傷で遊んどったと。そりやきっと天狗様が守ってくれたがや、といって親が喜んだと。
  川田には、天狗に捕まったら「サバきた、泣くな、サバきた、泣くな」と言うと、天狗が鯖を嫌いやもんで、天狗がつかんどるものをはなしてくれるという。タ方遅くまで遊んどると天狗にさらわれるぞ、と言われた。