434.天狗の恩返し

黒氏    平野  晶平

  むかし、黒氏から山仕事に石動山へよう行ったわいね。わたしや父親から聞いた話や。
  石動山の山小屋に泊まり込んで仕事をしておったげちゃ。タ方になったし、みんな仕事をやめて山小屋へ帰って、囲炉裏にどんどん焚火を燃いて、一杯飲んどったげと。そしたら山のどこからか天狗がお祭りしとる太鼓の音が聞こえてきたと。やがて山小屋のところへ来て「出そうか、出そうか」と大声で言うたと。そしたら中におったひょうきんな父うとの一人が「ほんなら出せ」と大声で応えたと。そしたら小屋の屋根を突き破って天狗が自分の長い鼻を突き刺したと。下の囲炉裏に焚火しとったもんで、それに火傷したげと。「アチチ、アチチ」と天狗が泣いとったと。そしたら山小屋におった人夫どもは「天狗さん、天狗さん、あんたいたずらしっさかい、そんながになるげ、ほんなら鼻の傷治すこと教えてやる」と言って、ドクダミの葉をもんで火傷したところへつければ治るげと教えてやったら、「こんで悪いことせん、ありがとう、あとで何かご恩返しをするわいね」と謝って山へ帰ったと。
  あくる日、人夫どもは山へ行って仕事場へ着いたら、枝打ちせんならん杉の木が、一晩の中に一山きれいにおろしてしもたったと。その天狗が恩返しをしたわけや。