391.人生にはつらい時がある

黒氏    平野  すず子

  昔しい、春木の三ツ池近くの家へ、ずぶ濡れになった若い男女が、一夜の宿を惜してくれちゅうて入ってきたもんで訳を聞くと、二宮の女郎屋の女とある家の兄ん様で、三ツ池へ、心中しようとしたが、死にきれなんだ二人であるとのことやった。そこで、その家の人が濡れた着物も替えさせて、火をどんどん燃やして温かい物を食べさせてやったところ、ようやく人心地がついて、人の心の温かさと有難さがわかったと言って、厚く礼を言って次の日に出て行ったが、後日、その二人が都会で出世して、あの時のお陰で私たちは人生を出直すことができたと行って、礼を述べに来たといね。
  人生には、一度はそんなつらい時があるもんで、それを乗り越えればまた良いこともあるもんじゃと。