384.太田道潅

良川     千場  つき

  江戸城を造営した太田道潅な鷹狩りにでた帰り道 タ立に遭い、民家の軒下に雨宿りをしたげぇと。
  その家ぁ高利貸の商いをしているがか、一人の女中さんが雇われておったと。
  タ暮れが迫り雨があがりそうもないので、道潅がその家の戸を叩いて、蓑を借して欲しいと言うたら、女中さんな黙って、山吹の花枝に歌一首添えて差出したと、
  七重八重 花は咲けども山吹の 実の一つだになきぞ悲しき
道潅はそれを見て、静かに頷き笑みをたたえ立ち去ったと。
  女中さんにすれば、蓑一つ貸せない奉公先の恥じを言葉にしたくないし、山吹の美しい花に例え申し上げたかね。
  太田道潅は、さすが歌の名人やそれをさあっと悟られたと。