379.大岡裁き・金盗人

廿九日    守山  なつい

  むかしむかし、大岡越前様ちゅう偉い人がおったぎいね。
  人の物を盗むもんがおって、豆腐屋にいつもかもお金がないがになるがで、家の者らっちゃ言うには、足が悪うてたたれん人が豆腐買いに来るが、あの人でなかろうかと言うとったぎと。そして、その人に豆腐屋が
「お前が盗んだがでないか」ちゅうたら、
「おらあ、こんな足あ思うてたたれんもんが、どうして盗られる」ちゅうたとい。そしたら大岡越前様が
「無理やあないわなあ」と言われた。そして
「ご苦労やった、この瓶にお金が一杯入っとるが、たあしるさかいに持って行け」ちゅうたったとい。そしたら、どんな格好かしらんが、それをもろうて持っていこうとしたら、大岡様は
「その格好で盗んで行ったがやろう」とあかいたったと。

「類話」

大岡裁き・釜盗人

良川     千場  つき

  いざりの人がね、隣同志にいざりが居ったぎいね。そしてその婆ちゃんが、隣に釜が盗まれたぎい。そして近所をどこを探してもないぎやけれども、ヒョット見たら、そのいざりの一人暮らしの婆ちゃんの家にその釜があるぎい。そやもんで、戻してくれちゅうても、絶対に戻さんぎい。そのいざりが「おらみたいないざりが、どうしてあんたの家から引っ張ってこられる」ちゅうがになったぎい。
  そしたら、その家の人が訴えたぎい。隣にあるけれどもなんもいくさんもんで、大岡裁判に訴えたぎい。そしたら、その盗んだていわれるその婆さんも引っ張り出されたぎい。
  そしたら
「ご覧のとおり、こんな足もたたんもんがどうして隣から釜を持ってこられる」ちゅうて、そのいざりの婆が言うたら、大岡様は
「そりゃーもっともや」と
「どうしてそんなもんお前が持ってこられるはづかのう」て言うたったら、こっちの方は黙っとったら
「そんなくらいやさかい、この釜はお前にあたわっとるわい、持って行け」ちゅうたったら、婆、忘れてしもうて釜を冠って家へ戻ろうとしたら、大岡様は
「チョット待て」ちゅうことになって、釜盗人が見つけられてしもうたぎいと。

(付記)

名裁判=味噌盗人

  大岡裁きの一話型。その中に味噌盗人がいると思われる集団(村人あるいは長屋の住人など)にむかって、大岡越前守が「味噌を盗んだ手は三年(または一週間など)も臭いから、かげばわかる」と言うと、一人の男がそっとかいだので犯人とわかった。という話。
  難題の解決に機智と興味を中心においた大岡裁談。