378.人同裁き・子供争い

良川     千場  つき

  むかし昔、二人の母親が、おらの子やおらの子やちゅうて争うとったれど、どうしることもならんもんで、大岡様に裁判してもろうがになったぎい。そしたら大岡様が、生んだ親と育てた親と、子供の手を引っ張り合いをして、カ強く引っ張ったもんな我が子やちゅうたら、汗水かいて育てた者と生んだ者と、両方で手を引っ張ったら、「ギャーッ」てネンネぁ泣いたら、生んだ親が手を放いたぎい。
  そしたら、うれしいこっちゃ、そら勝ったわと思うて育ての親が連れて行こうとしたら、大岡様は、「ちょっと待て」ちゅうて、かわいて育てても、情で泣くもんで手を放いた母ァカが、もろうて行ったぎい。本当の子供に対する愛情を大岡様が視たったぎいね。
(大成新28「児引裁判」)

(付記)

児引き裁判=里子と実子

  生みの親と育ての親が、子供をめぐって争う。大岡越前守が、両方から手を引っ張ってとった者の子にするという。子が痛がる。生みの母は手を放す。大岡越前守は、子供が痛いと言ったときに手を放した生みの親に子を返す。