365.弘法様ににごし汁(一青)
羽坂 池上 ふじの
あっち、こっちに弘法様と水の話がよくあるが、私が爺さんから聞いた話やわいね。
弘法大師が歩いて修業なさっとったときの話やろね。
夏の暑い暑い日に汗をふきながら、乞食みたい格好した旅の坊さんが通りかかって、一青のどこの家か知らんが、「のどが渇いてどうもこうもならんもんでどうか椀に水一杯くれられんか」とたのんだげといね。そしたら、そこのお婆がじろりとみて、みすぼらしい格好した坊さんやったので、「お前のような乞食坊主はこれでも飲んどれ」と言って、米のとぎ汁を汲んで差し出いたげといね。
まあ、これを飲んで坊さんは行ってしまったと。それから後、一青の村の井戸水ぁ白く濁って、今でも飲めるいい水ぁでんげといね。
そのみずぼらしい坊さんな弘法様やったげといね。
(類話)
一青 岡島 みすの 黒氏 平野 すず子・中山 こと
(参考)
一青の水
(鹿島郡誌より)
夏の日盛り、玉なす汗を拭きながら姿あやしげなる旅僧、一青の某旧家を訪い一椀の水を乞われしに、米を磨き届たる脾女(あぱ)の小五月蝿しとて磨水を与えたり、漸くにして喉をうるおせし旅僧は辱なしとて立ち去りしが、其後一青村内の井水白く濁り、今に澄める水を得ずと、姿あやしげなる旅僧は行脚の弘法大師なりと伝う。