364.弘法様と蚊(大槻)

大槻    山崎 幸子

  むかし、弘法様がみすぼらしい姿でこちらへ来られて、一夜の宿を貸してくれと言われたったがや。しかし、「家が貧乏で蚊帳がないし」と言ったけれども「蚊帳なぁてもいいわいの、蚊おらんがにしてやっさかい」と言われて泊まっていかれたと。それから、うちには代々蚊がおらんげといわれとるわいね。そやけど暑い晩には、たまにおるときもあっけどね。わりにおらんかもしれんね。まあ、代々、弘法様が蚊をおらんがにしてくれたったと言うとるわいね。
  またシュウドの川やいうて流れとるわいね。どんな夏でもかれんわいね。この水はそんとき弘法様の杖の跡から出とるげというて、よい水で死にどきでもシュウドの水を飲みたいというて、わざわざ汲みに来ての人ぁおってやわいね。

(参考)

弘法の蚊除

(鹿島郡誌より)

  弘法大師或る年の夏、大槻の大蔵方に一夜の宿を求められしが、蚊帳もなき貧しきに蚊を防ぐ術もなきを不燗に思召され蚊を封ぜられしが、其の後大蔵方に蚊は出ざりしと伝う。