357.金塚(末坂)

末坂    坂井  久松

  末坂に三の公坊と言口うところがあるわいね。そこあ五輪谷の寺のあった所や。そこに金塚ちゅうがあるが、おら子供のとき聞いた話や。
  むかしむかし、信仰の深い爺さんと婆さんがおったと、年がいっとったけどよう働く爺さん、婆さんやったと。ある晩のこと夢のお告げがあって、「お前らっちゃ働かれんようになったら、節句の日に金塚へこい」という仏様の案内があったと。案内があったし、働いてもその日の暮らしにも困っとったもんで、恐る恐る金塚へ行ったげと、そしたらちゃんとお金を置いてあったげちゃ。この金をいただいて暮らしにあてとったわけや。この話を聞いた隣の欲張り爺さんが、「どうせ在所にある金塚やさかい、おらもそのわけまえをもらわなどんこならん」といって、「この次、金塚へ来いという案内があったら、おらにも知らせ、おらもつんだって行くちゃ」と約束させ、その日の来るのを待っとったげちゃ。ある晩のことまた爺さんのところへ案内があったもんで、こんだ隣の爺さんと二人で行ったわけや。ところが、金塚の戸前でガチャンと錠前がおりた音がして、それから金が出なくなってしまったという。
  なんせ人まねしてもだめやし、欲張りせんもんじゃ。