342.豊財院の釣鐘

春木    小谷内  勝二

  本妻と妾とおったぎと。二人は仲悪いとも仲悪いともほんとにびどかったげと。
  親父や江戸へ行って大工で一生懸命に働いとって、妾をこしらえてなんも家へこんぎゃい。そして金も送らんぎ。本妻やこっちに居って働いとったれど、いかなよいかげんに金を送ってくるやるぞい、返ってくるやるぞいと思うとったれども何んもこん。そうしとっとこへ、風の便りに、お父とぁ江戸に妾こしゃいて何も来んけちゅう話しが入ってきた。いかなことにもどんな妾やも知らねども食い殺してやろかちゅうとったら、ほしたら親父や夜中に「キャーッ」ちゅうたちゅうわい。首や噛み切られとって血ぁしぶいとって死んでしもたちゅうわい。
  ほしたら本妻や風の便りに、親父や死んでしもうたちゅうが聞いたもんで、おらほんなら善光寺へ詣ってこうかなちゅうて出かけたとい。妾もおらこんな邪険なことをしとったもんで、おっちや親父や、何に殺さったか知らんけど、ひどいがに殺されたがと思うて、妾は親父の骨をもって善光寺へ詣るわと思うてきたぎとい。
  そしたら、ちょうど善光寺の前の宿へ泊まり合わせたとい。どこをどうしたやらいっしょになって話しをしたら、話しやおうたといや。
  親父の死んだそんとき、本妻の口ぁ、赤なっとったがから、時間から、何から何までおうとったと。そこで、二人して親父の供養のために釣鐘こしゃいて豊財院へ奉納したぎとい。
  ほしたら釣鐘に穴があいとるがが、どんだけ高岡の鋳物師に埋めてもろてもふさがらんぎと。その穴のふさがらんがは、親父からもろたカンザシがあったらい、あったらいの念のあるもんを釣鐘の中へ溶いて入いっとるもんで、穴になってふさがらんぎとい。