338.十劫功(じゅつこうぼう)の白いたにし

瀬戸    島田  すず子

  昔、伊助谷の堂林に十劫坊という真言宗のお寺があったといわれとるがで、そこの小川の溜りに白いたにしがおるわいね。今じゃ草やぶみたいがにおおわれてしもとるがね。たにしは白い衣を着ておるようで、坊さんが五条のけさをかけとってなみたいがになっとるわいね。この十劫坊のたにしは食べるなと言われとるわ。
  十劫坊は畠山の守り寺となって栄えとったがで、上杉謙信が畠山を攻めたが、安津見から伊助谷を通ったときに、この寺を焼き討ちしたげと。そん時に若い坊さんが寺と一緒に焼け死んでいくのを見て、この坊さんを慕っていた若い尼さんが、坊さんの後を追うて火の中へ身を投げたげと。
  この白いたにしは、坊さんを思う若い尼さんの霊がうつっとるがで、食べてはならんと言われとるげわ。