330.春木の薬師如来

春木    奥本  利作

  明治の初め神仏分離令のときに「春木に薬師如来がおいでたはずやが」ちゅうて調べに来たげと。そしたら春木の八郎兵衛ちゅうもんが、そういう調べに来るぞということが先にわかったもんで、薬師如来を隠いとおいたがで、そんなもんな知らんちゅうて、言い通したげと。それをどこに祀っとたかちゅうと、行水池と宮池のあいに土提あるが、あっちへ橋をかけてそこに祀ったげちゃ。そして、神仏分離の熱がさめてから春木の宮の横に、薬師様を移しまんしたもんや。

「類話」

春木の薬師様

春木    小谷内  勝二

  畠山の殿様の祈願所やった。畠山の紋所がついとるわいね。 昔しゃ、能登部の長楽寺さんが来て祭りの祭司もしとったぎちゃ。春木を中心に、この辺じゅうの人が病気になりゃ参りに来たもんじや。治りゃ白い布に自分の名前と年を書いて、大きく「南無大師遍照金剛」と書いたお札の旗が上っとった。
  また、男ならたばこ入れを上げて、おらこんでたばこを吸わんちゅうて、キセルからドーランもてがら上げてあったし、女なら、こんで島田や挑われなど、派手な格好はせんちゅう誓いに、髪の毛を上げてあったりした。
  なんじゃら、さびして行かれなんだわ。