329.お水の藤右ヱ門さん

良川    畑  文太郎

  藤右ヱ門さん(数永)とこに薬師さんが居ったったげ。藤右ヱ門さんとこの水を飲むと、大変ご利益があるといって、春の仕事をする前と、秋一作とったあとに、越中から団体で薬師さんへお話りにきて水を受けていかれるくらいやった。目の病気やできもんが治ったといね。
  藤右ヱ門さんとこに、そういうご利益のある薬師さんがおいでたがで、それが口伝えでか、北海道にまで信者が広がって、水を送ってくれとか、薬師さんに析ってくれとか言われる。北海道からは昆布や干魚などの海産物を送ってきてお供えしてくれといわれたそうや。この「薬師様の水」は山から引いて家の流しに飲み水にして使っておったもんや。藤右ヱ門さんは百五十年ほど前に、所口からこの薬師様を受けてこられたげ。そして大事に供養しとったがや。ある晩のこと、この薬師様が夢のお告げに「この水は病によく効くから困っている人に与えよ」と言われたそうや。藤右ヱ門さんはこのお告げによって病人にこの水をわけてあげたところが、皮膚病で弱った人が治った。胆石がとれた。目がよくなったと広まっていったと。そやけど十年ほど前の水害で水源が切れて水が出なくなったし、藤右ヱ門さんの家は、この薬師様を持って大阪の方へ転出されたので、このご利益もなくなってしまったがや。