315.火の宮さん

良川    畑  文太郎

  地頭に明治十二年五月十四日に大、火があって、一帯がずっと焼てしもた。その原因は隣の馬場のもらい火と言えぁいいか、火の粉が飛んできたのや。馬場のある婆ちゃんがマッチがないもんで、火種をもろてきたげけれど、それが強い南風で、自分の手が焼けっかと思うてポッと手を放したげと。それが地頭の方へたってきて、沢惣助さんの屋根に移って、そしてその辺二十何軒いっぺんに燃えてしもうた。この辺はみんな薬屋根の家やった。地頭で今、あずまや作りの家というのは、ほとんど大火の後に建てた家ばっかりや。
  その時分、火の宮さんが延田さんの守り神としておいでた。それが何かのひょうしに、川へ流れたらしい。大火はそのたたりではないがという話を聞いて、誰が拾うたかはわからんが、広田真さんらが小林小吉ェ門さんの山に祀ったと言われている。そこへ祀ってからは地頭に火事がないというわいね。
  ほんで私ら、火の宮さん、火の宮さんというてお祭りしとるげやが、日蓮宗の本土寺さんにきてもらって、年二回祭りしてもろとるがで、その近所の三田惣六さんの母ちやんと、小林信太郎さんの婆ちゃんに世話してもろとるげわね。
  その神様は地頭の吉田の方を向いておいでるがで、その神様をおがましてもろたら、木の札にちょっと字を書いてあるがで、はっきりは何と書いてあるがかわからないが、それを祀ってから火事がなくなったと聞いている。