363.出生届け

末坂    坂井  久松

  ねんねが生まれて一ヵ月位いたってからのことや、昔や、ねんねが生まれると役場へ直接届けんとって、区長様へ言うてったもんじゃわいね。
「区長さん、おちゃうちに、ねんねあ生まれてね」ちゅうて言うて行ったら、
「何や生まれたい」ちゅうて聞かれたもんで、
「チョンやわいね」ちゅうて答えた。昔や、女の子をチョンちゅうたわいね。区長さんな
「そうか、そりゃ芽出たかったなあ、役場へ言うとくぞ」ちゅうて、区長様それっきり忘れてしもたぎい。
  役場へ行ったとき書類出さんならんがを気がついたが、なんちゅう名前やったか名前を聞いとくがを忘れて聞いてなかったし、今さら戻って聞きに行くがもやあもんで、ちょっと考えとった。
  あの父とあ「チョン」やちゅうたことで
「チョン、ちゅう名やったじゃ」ちゅたら、役場のもんな
「どんな字を書くが」ちゅうたと、
「なんかチョンと書いとくこうちゃがいや」ちゅうて済ましたぎけれど、その父とが言うには
「役場の者な何んも知らんもんじゃ」
「そんなもんな、チョンちゅう字は、チョンと点をしとけやほんでよいもんや」と父とが言うたがや、そしたら、その子は小さいうちに死んでしもたげね。
  チョンと生まれて、チョンと死んでいってしもたといね。