253.匂いの代金

川田    守山  裕美子

  欲のふかい男が弁当に飯だけつめて食べとったと。そして隣の魚屋の前へ来てはうなぎの焼いとる匂いばっかりかいては弁当を食べとったもんで、魚屋の主人は匂いの代金をもらわんならんと言うて大歳におおきな書きつけをもって銭にとっにきたと。その男あ、おらあんたのうちからうなぎを買ったことがない。といいはる。でも魚屋の主人は匂いの代金を請求した。とうとう、その男は
「ではよかろう、払いますよ、払いますよ」と言ったので魚屋の主人はしめたと思った。やおら小袋にお金をいっぱい入れて、チャラチャラ、チャラチャラと振ったと。
「はよお金くれんかいや」と言うたら
「おらかいたのは匂いだけや。おまえのかぐのはこの銭の音でたくさんや」と言って帰らせた。欲ばり同志の話や。
(大成18A 「匂いの代価」・通観402「匂いの代金」)

(付記)

匂いの代価

  けちな旅人が、うなぎ屋の前でかば焼きの匂いをかぎながら食事をする。主人が匂いのかぎ代を要求する。においだけだからといって銭の音だけ聞かせる。
  けち(貧乏人・小僧・旅人)となっており、蒲焼き(魚・豚)となっている。