252.薬とやすり
良川 千場 つき
だらな兄んさに薬を買いに行ってこいちゅうて出ていたら、どこへ行けちゅうげったら、何を買うてこいちゅうけやら忘れてしもうたもんで、金物屋へ入ったと。店屋の人は「このやすりですか」と間うたので、何やらスリちゅうがついとったと思い出して「そうや、そうや」といってやすりを買うてきたと。
家へ帰ったら「こんなもん買うてきて、こりや、やすりやがい、薬を買うてこいと言うたがい」ちゅうて叱られたもんで、「クスリとヤスリは一字ぐらい違うとったって何じやい、そがいに怒らんでもいいがい」と、だらな兄んさ言うたと。
(大成593「鍍と薬」・通観353「薬とやすり」)
(付記)
やすりと薬
薬を買いに行かされた息子がやすりを買ってくる。薬を買ってこいと頼んだのにと、とがめられると、ヤスリとクスリはただ一すりの違いではないかと屁理屈をこねた言い抜けをするのが面白い。