249.借金取りの香典

良川    千場  つき

  昔ぁ盆、暮れによう借金取りが来て、銭払いしたもんや。
  あるところに、父とと、母かがおって、借金取りが来ても銭払われんもんで、父とあ思案のあげく、母かに、
「借金取りあ来たら、おらあ鳥小屋にかくれておるさかえ、父とあ、三、四日前ににわかな病いで死んでしもうたて言うこっちゃ。そして腹に椀を当て、腹悪い腹悪いと言いながら叩いておれや。死んだていえあ、香典ぐらいくれるかも知れんさかえ、それあ貰うておけや」て言えて、言いふくめたげと。その後幕のある日、借金取りあ来たもんで、母か腹に椀を当て叩きながら、
「腹悪い、はらわるい、はらわれん。」て言うて、教えられたとおり、
「父とあにわかな病いで死んでしもうた」て言うたら、借金取りあ気の毒なちゅうて香典出したげと。ほうしたら、鳥小屋の方から、鳥あ鳴いたがか、とうとあ言うたがか「コケコッコー、コケコッコー、トットケ、トットケ」で、声あ聞こえて借金払わんとって、香典もろうて済んだと。
(大成558「借金取りの香典」・通観338「借金とりの香典」)

(付記)

借金取りの香典

  狡滑者談。
  するがしこい亭主と人のよい女房とが、窮余の策として大芝居を演じ、暮れの借金取りから逃れるという、ユーモアたっぷりな話。
  亭主が女房に借金取りが来たら、夫は死んだと言い訳をするように頼み、棺に入り死んだまねをする。借金取りは女房の大芝居を見て気の毒に思い、香典を渡そうとする。女房が気がとがめて断ると、亭主は棺の中から、もらっておけと叫ぶ。借金取りは幽霊だと思い、逃げて行くという話。
  自分が死んでしまっていることを忘れ、思わず「トットケ」と鳴くのが笑いをさそう。