246.おはぎは阿弥陀さま

末坂    三野  喜美子

  昔、あるところにお和尚さんと小僧がおったと。和尚があるとき檀家からおはきをもろうたもんで、阿弥陀さんにお共えしておいたと、和尚がちょっと留守をした間に、小僧がおはぎを食べてしもうたと。小僧が自分が食べたがみつかったらだいそどうやと思った。
  どうしたらよいかなとしばらく考えた。こりや仏さんの口もとにあんこを塗っとけやいいわいと思って、そこにおらっしやる阿弥陀さんの口にべったりぬりつけて仏さんが食べたことにした。和尚がもどってきて仏さんに参ってみるとおはぎがないもんで、小僧に「小僧お前仏さんのおはぎを取って食たのう」という。小僧は「いいや、取りやしない」というて知らん顔していた。
  和尚さんはどうもしようがないので降参した。
(大成535「餅は本尊様」・通観226「和尚と小僧・餅は金仏様」)

「類話」

甘酒は本尊様

花見月    八尾  幸子

  むかし山寺に和尚さんと小僧がおったと。和尚さんが甘酒をつくって自分ばっかり食べて小僧になんもくれなんだと。小僧は何やろかいなあ、うまそうやがいっぺん食べたいなと思っていたが、和尚さんは「これは毒や」といって瓶に入れて食べさせなんだと。
  ある日、和尚さんが「小僧や小僧、わしは今から門徒の家へ行ってくるから、この瓶のもの食べてはいかんぞ」と言うて出かけた。
ところが小僧は和尚さんが行ってしまうと、その間に瓶の甘酒を食べてしまったがやと。そしたら小僧は「こりや弱った。あんまりまいもんで食べてしまった。和尚さんに叱られるが、どうしよう」と考えたがやと。そこで瓶の底に残っていた甘酒のしるを本堂へもっていって、本尊様の口のへりやら、床板に塗りつけたげと。
  そこへ和尚さんがもどってきて「小僧小僧、お前は留守中にあの瓶のもの食べたんではないか。瓶もないがい」と言うたと。小僧は「おら何も知らん」と言うたげ。そして「本堂の阿弥陪さんが食べたんではないか」と言うたら、和尚さんは「仏さんがほんなもん食べるかい」というて怒ったら、小僧は「和尚さんこの本尊さんが食べたけ、口のへりゃぬれとつし、瓶もそこに置いてある」と言うたと。あんまり和尚さんが不思議な顔しとってやもんで、小僧は「ほんなら証拠にこの本尊様を炊いてみりゃわかる」と言うて、仏様を炊いたら湯がだんだん煮えてきて「クタクタ、クタクタ」と煮えたぎゃと、すると小僧が「和尚さん、和尚さん、やっぱり仏様が食った、食ったと言うとる」といって和尚さんをへこましたと。

(付記)

餅は本尊様

  和尚と小僧話。
  小僧が盗み食いをして機智を働かせて仏様が食べたことにする話。
  小僧が和尚の留守に仏前に供えてあるおはぎを食べて、仏像の口の端にあんをぬっておく。和尚が帰ってみるとおはぎがないので、小僧にお前が食べたのだろうと言う。小僧は、仏様の口の端にあんがついているから仏様が食べたのだという。和尚が棒で金仏をたたくとクワン(喰わん)という。そこで小僧が仏像を釜に入れて煮るとクタクタという。