245.和尚の焼き餅

瀬戸    笹谷  よしい

  むかし、和尚さんがえん中の灰の中へ、おぼくさまの餅をもろてきたがを、焼いて食べるがに、小僧等に「早う寝え、早う寝え」ちゅうて小僧を寝さしてしもうぎと。そやもんで小僧あ、なんでこんな早う寝させるぎやなあ、と思うて、障子の穴からのぞいとったぎと、そしたら、火ばしにかきわけて、餅のあぶったがを取り出いて食べとたぎと、次の晩も次の晩も、毎晩のようにして小僧に「早う寝え、早う寝え」て言うたぎとい。
  そしたら小僧が、「和尚様、今日和尚様の使いに行ってきたら、檀家の家に建まいがあってね」と言って、火ばしを使って「ここに柱があって、また、ここに柱があって」と言いながら、えん中の、灰の中の餅を次々と火ばしにつき出してしもたぎと、和尚様は仕方なしに小僧等にもわけて食べさしたと。
(大成533「焼餅和尚」・通観228「和尚と小僧・焼餅和尚」)

(付記)

焼餅和尚

  和尚と小僧談。
  小僧の知略で和尚のいやしい目的が果たせなくなる話。
  和尚が自分一人で餅を焼いて食べようと思い、小僧に建前をしている様子をみに行かせる。囲炉裏で餅を焼いていると、和尚の魂胆を知っている小僧はわざと早く帰って来る。あわてた和尚が餅を灰に埋めるが、小僧は和尚に火箸で、ここに大黒柱が一本、あそこにも一本と普請の説明をしながら灰を掻きまわしては餅を出してしまう。和尚はしかたなく餅を小僧に食べさせる。
非カな小僧が和尚に知恵で勝つ痛快さがある。