244.飴は毒か
末坂 三野 喜美子
ある寺の和尚さんが小僧に、このかめだけはなぶったらだめやぞと言い聞かせておいたと。だめやちゅもんなよけいみたいもんや。人間はそう言われやみんなよけいみたいし、のぞきたいもんや。なんとかして和尚さんのおらんじのまに小僧がのぞきたいなと思うておった。和尚さんはいつも大事そうに抱えておって、これだけは絶対になぶってはならぬ、もしなめたりしようもんなら死んでしもうぞと言うてあった。
あるとき和尚は檀家へおつとめに行った。こんときばかりやと思うて小僧は棚の中にしまってあったかめを出して、そっと蓋を開けてみたらプーンとよい匂いがした。これこれと思って一なめしたらとてもおいしかった。ついついなめとったら底をついてないがになってしもうた。そしたら和尚さんがきてかかって
「お前やおれの大事なもん、あれほど言っとたがにかめの蓋をとったなあ」と小僧を責めた。
「一なめしたもんだからもう死ぬかと思ったが死なない。どうせ死んで詫びるのだから早く死にたいと思うて全部なめた。もう毒が体中にまわっとると思うがまだ死なないのです」というて泣いたと。
(大成532「飴は毒」・通観225「和尚と小僧・飴は毒」)
(類語)
瀬戸 笹谷 よしい 川田 守山 裕美子
(付記)
飴は毒
和尚と小僧談。
欲な和尚が、飴を大人には薬だが子供には毒だという。小僧は和尚の留守に瓶の中の飴をなめてしまい、和尚の秘蔵する硯を打ち割っておく。和尚が帰ると小僧が泣きながら
「和尚さんの大切な硯を洗っていて割ったので、みんなでお詫びをしようと瓶の中の毒を全部なめたがまだ死にません」という。また小僧が故意に割る物には壷、茶碗、湯呑み、急須、鉢などがある。
狂言の「ぶす」では大名が黒砂糖を大毒の「ぶす」という。太郎冠者は次郎冠者を誘ってこれをなめ、大名秘蔵の天目茶碗を割るというのと同型である。