241.八つ手の葉と天狗の扇

末坂    三野  喜美子

  むかし、むかし、爺々と婆々がおったと、二人の間には子供がなかった。どんだけ神様に子供が授かりますようにと願までかけたができなんだ。そして願のあける時に神様は「おまえら二人はもう年もいっとるもんで子供は授からんわい。そのかわり米が欲しいと言えば米、銭が欲しいといえば銭、何でも欲しいもんいえば出る宝物の天狗の扇をやっさかい大切に使えよ」といって扇をおいていった。
「子供授からんのやさかい、もうあきらめよう」本当に欲しいもんいうたら出るかなと思うて、扇をふって「銭出ろ」「米出ろ」というたら、銭や米がザアーザアーと、出てくる、何から何までいうたもんで出るわ出るわ、もう欲しいもんがないがになってしもたもんで退屈になってきた。
  そこで天狗みたいに鼻を高うしてみっかちゅかになったげと、「鼻高なれ」と一あおぎしたらグンとのびた、二あおぎしたらまた高くなった。あおぐたびに伸びるのでしまいに天まで伸びた。
  下の村では枯れ草を焼く野焼きがはじまった。けむたくてけむたくてどんこならん。「鼻低くなれ、鼻低くなれ」とあおいだが問に会わず、爺々はとうとう焼けどをしてしまった。
  この天狗の扇がおそろしくなって神様に奉納したと。この天狗の扇が八つ手の葉によく似ているもんで、八つ手の木は神様の宿る木やさかいに神様などのあらたかな所に植えるもんやと。
(大成469「鼻高扇」・通観378「鼻高扇」)

(付記)

鼻高扇

  ある男が鼻を長くしたり、短くしたりできる天狗の扇を拾い(魔法の扇)長者の娘の鼻を高くして治療して金を得る。自分の鼻をあおいでいると、鼻は天まで伸びる。天の殿様が刀を鼻に突き刺したので、鼻が折れて目が覚めた。