238.おはぎは半殺し

黒氏    平野  すず子

  むかし、旅の人が一夜の宿を貸してくれちゅうてやってきたがやと、ほしたら、こんな山奥へようこそ来てくれたというて、さあさ入って休んでくだされて迎えたぎと、そしたら、旅人が、なんちゅうやさしい人らちやね、
「ほんなら一晩とめてくれ」といって入ったと。
  宿の爺さんと婆さんは、長いだぶりのお客様や、何をして食わせましょうかな、ちゅうて話がはずんどったげちや、
「ほんなら、ふだん食べられんさかい、半殺しでもしましょうか、それとも本殺しにすっかね」と言うとったげと、ほしたら、旅の客がそれが聞こえたがや、
「あらおとろしや、明日の朝、半殺しにされるがかいな」どうして逃げようか、何にしても夜の明けん間に逃げにゃ、半殺しにされたら大そうどうやというて、こっそり逃げていってしもうたげ、いよいよ爺さんと婆さんな半殺しこさいたもんで、婆さんな朝、
「お客さん、お客さん、起きて下さんせ」と起こしに行ったらもうお客さんなおらなんだと。そりやなんでやちゅうと、おはぎのことを半殺し、筋のことを本殺してゆうがを知らなんだけちゃ。
  せっかくの、おいしい心のこめた「おはぎ」を食べんと逃げていっておらなんだと、なんと惜しいことをしたもんじゃ。
(大成415「本殺し半殺し」・通観258「手打ち半殺し」)

(類語)

廿九日    守山  なつい

「類話」

手打ち半殺し

良川    千場  つき

  むかし、旅人が泊まったら、宿屋のお父ととお母かが、手打ちにするか半殺しにするか、ほんでも丸殺しにするがかと話ししとったとい。
  そしたら、宿屋に泊まっとった旅人あ、びっくりしてひやひやしとったら、手打ちはそば、半殺しはかい餅、丸殺しは餅、そういうことわかって旅人も安心したぎと。

(付記)

本殺し半殺し

  日本昔話集成では愚人談に分類されている。本殺し半殺しという餅の作り方の異名を知らない人が、本殺し、半殺しを言葉通りにとり違えるおもしろさを笑いとしている。
  旅人が一晩の宿を求める。夜中に家人の話し声が聞こえてくる。
「明日は本殺しにするか、半殺しにするか」と言っている。旅人は驚く、半殺しされる方がまだいいと覚悟する。
  翌朝餅をつく音が聞こえてくる。旅人は半殺しにする前祝いをしているのだと考える。食事だと呼びに来たので、早く半殺しにしてくれ、と言う。
  家人は笑って、半殺しとはぼた餅、本殺しとは筋のことだと教えるという話。また本殺しにかわって「手打ち」と言って、ソバをあてているものもある。