237.肝試し

羽坂    辻井  吉松

  夏の夜に、若衆が昔やこれちゅう娯楽もないもんで、集まっては肝試しをしたもんじゃ。
  ある晩、まあショボショボ雨が降っとったが、十人程の若いもんが寄って肝試しをするがにしたと。
  そこで、さんまいへ行って、行ってきた証拠に杭を打ってこいと、それ出来たもんに酒一升出すわいちゅうことになったぎとい。
  そこで度胸のある男が「よし、ほんなら、おら一つ行ってくるわい」ちゅうて出かけたぎとい。
  でかい顔して言うたれど、心の内には、恐ろしい、恐ろしいにさんまいへ行って、どうにかこうにか杭を打ったぎと、さあ、こんで酒一升もろたわい、と思うて戻ろうとしたら、着物の裾を引っぱつとって放さなんだとい。
  その男あ、さあ、こりや化けもんに引っ張られたぎじゃ、と思うたらゾーッとしてもうて、気絶したぎとい。ほしたら杭打って来るちゅうて、でかい顔して行ったれど、いつまでたっても戻らんもんで、皆んなして見に行ったら、ゆかたの裾を杭といっしょに打ち込んで、そこに気絶しとったとい。
(大成410「肝試し」・通観352「肝試し」)

(類話)

黒氏    平野  晶平

(付記)

肝試し

  若者が集まって肝試しをする。墓場に行って杭を打ち込んでくることにする。
  夜になり、一人づつ行くが、一人の男が戻ってこない。心配して見に行くと、自分の着物の裾を打ち込んでその場で気絶していたという話。
  世間話風に言われる笑い話、愚人談である。しかし「肝試し」でも、ここでは採集できなかったが、本格昔話に位置づけられるものもあるはずである。
  どの程度の恐怖に堪えられるかの度胸試しとして難題を与える、例えば空屋へ行って化物の正体を見抜いて退治するとか、普通の人とは違ったすぐれた能カの持ち主であることをみつけて長者の婿となる「カ太郎」などの類がある。