234.みょうが宿

川田    守山  裕美子

  うちで年よりの婆ちやんが、ミョウガが大好きやったわいね。そやけど母が子どもに、ミョウガ食べんとけと言うげね。ミョウガ食べると覚えが悪るなるというもんでたべさせなんだわいね。ミョウガ食べるとなんで覚えが悪るなるがいねと聞いたら、ミョウガ宿の話をしてくれた。
  むかし、欲張りの宿屋の主人が、お金もっとりそうな旅人が泊まりに来たもんで、財布を忘れていかせようと思うて、ミョウガばっかりのごちそを沢山つくって食べさせたげと、旅人は喜んでこの宿屋のごちそうはうまいといって、みんなたいらげて食べてしまったと。宿屋のおかみさんも、ああよかった、みんな食べてくれた。あしたは楽しみやと言うとったと。
  旅人は泊まって、あした帰った後、きっと荷物を忘れていくさかいに、見にいってこなだちやかんと言うたと。
  朝になって旅人はどうしとるやらと思うて、そうっと見に行ったらもう夜が明けんあいだに旅人は出ていってしもうて、どこ探いてもおらんし、荷物一つないげといね。どうしたげと旦那はおこったけど忘れ物など一つもない。そしておかみさん考えて、旦那に
「お前さん、お前さん、宿賃もろたかいね」
「ありや、しもた!」旅人は宿賃を払うがを忘れていってしもたと。
  旅人は自分の荷物を忘れんと、賃払うがを忘てしもたし、主人は宿賃をもろがを忘れて逆に損をした。欲の皮がふかいとだめやというた。
  親はタケタカ子はジンココダケに花が咲く。親が丈が高いいが、子は小さい、小さいだけに香りがいい。
(大成392.「茗荷女房」・通観384「みょうが宿」)

(類話)

羽坂    長屋  憲二、辻井  吉松・良川     千場  つき

(付記)

茗荷女房

  「日本昔話集成」では愚人談である。
 欲ばりな気をおこしたがために、かえって損をする話。
  ミョウガを食べると物忘れするという俗説から、欲ぱりな宿の亭主は、客が財布を忘れるようにと、ミョウガをたくさん食べさせる。しかし、客は財布はちゃんと持ち宿賃を払うのを忘れて宿を出てしまう、という話。
  「茗荷宿」「茗荷と宿賃」という題がふさわしいようにも思う。