233.屁こき嫁
黒氏 森正 キクエ
むかし、あるところに貧しい婆と息子が反物屋をしとったと。よその村からあんにゃま(嫁)もろうたと。よいかせぎ手であったもんで婆も息子も喜んでおったと。
ところが四日、五日とたつうちに、あんにゃまのあんばいでも悪いのか、青い顔をしてしょんぼりしてきた。婆さまが、
「あんにゃま、毎日なんして、青い顔しとるのや、わけやあったらいわんせ」と聞くと、
「屁したくて死にそうや」婆さまは
「屁ぐらい出たて、だれでもこくわい、さっしゃい、さっしゃい」と言うたげ、
「きたそうそうから、こくこともならんと思うて、カきんどったら、こんながになった」
「ほんなら、えんりょせんとこけ、こけ」
「ほうか、ほんならこくさかい、柱につながっつとってくさんせい」しかし婆さまも息子もひどい屁もあるもんじゃなと思ったが、柱につかまっとると、あんににゃま着物のすそをまくし上げて、ブウ、ボカーンとやったと、婆さまも、兄んさも吹き飛ばされて、隣のだいこん畑までほりやられたと。
そこで、親まで屁で吹き飛ばすような、屁こき嫁はおくことができないということになって、息子は泣くあんににゃまを連れて里へ送って行った。
その途中、ある村まできたときに、牛方どもがおって、道ばたに大きな梨の木があったきと。まんででかいうまそうな梨やなっとったぎと、牛方どもあ梨の木に石やら木切れを投げつけて、梨をもごうとするが一つもとれないでいると、さっきまで泣いていたあんににゃまが、にっこりと笑うたげと。
「なんて、かいしょのないひとやな、おらの屁にもならんもんやな」、と言ったので、そしたら牛方ども腹立てて、
「いかなことにもおそつけなことを言うわ、そんならおまえや、やってみろ、もしどとれぬときは、おまえのからだをもろうぞ」とおどしつけた。あんににゃまうれしそうに笑って、
「もしうまくいったら、おまえたちの中と荷物をおらによこせ、もしおらがしくじったら、おらのからだはおまえたちのもんだ」と言った。さあ女、早く、早くとせきたてた。ブウ、ボカーンとぶっ放した。大きな梨の木は根こそぎにかやった。
あんにゃまは約束どおり、牛方の引いていた牛二十一頭と、七頭分の反物、米俵七駄、魚荷十駅をそっくり手に入れた。
そしたら、こんな銭もうけの嫁様を、どうして里へ帰さりょがちゅうことになって、そして家へつれもどいたと。
(大成377「屁びり嫁」・通観363「屁こき嫁」)
(類話)
大槻 小蔵 きよ乃
(付記)
へやの起こり
「日本昔話集成」は「屁びり嫁」と題している。嫁の屁の功名を誇張して語る笑話。
嫁が姑を屁で吹き飛ばして離縁される。帰りに牛方とかけをして梨を吹き落とし、牛と荷物をとる。夫は再び連れ帰る。小屋をつくった、これが部屋のはじめ。(屁屋)それから幸せに暮らしたという話。
屁の威方を示す場面は姑を大根畑まで飛ばしたり、裏山までなどある。かけの相手は木綿屋、呉服屋、行商人などであったりする。