229.買い物の名忘れ
川田 守山 裕美子
だらな兄んさやったけど、母ちやんな用事をたのんだげと、
「あのお、豆腐屋へ行って油揚げ買うてこい」と言うたげと。だらな兄んさ忘れるとどんこならんと思うて道々
「油揚げ」「油揚げ」と言うて歩いとったと。そしたら途中にえんぞ(溝)があったもんで、そのえんぞを「ドッコイショ」といって跳んだけ、跳んだひようしにわすれてしもて、それから「ドッコイショ」「ドッコイショ」と言って歩いて
「ドッコイショ」売ってくれと言うたと。店屋は何のことかわからんもんで家へ帰したと。
(大成362B 「買い物の名」・通観273「物の名忘れ・買い物の名」)
(類話)
羽坂 長屋 せつ・良川 千場 つき
(付記)
用事をたのまれた愚か息子が、その言葉をくり返して歩いていく。 溝を「ドッコイショ」と言ってとぶと、「ドッコイショ」になってしもう。
とぶとふしぎに名前を忘れる。先方で「ドッコイショ」と言うが相手はわからない。溝をとぶときの「ドッコイショ」、「へントコ」、「ウントコイショ」が地方によって種々あるようであるが、この地では「どっこいしよ話」とさえ言うようにみな「ドッコイショ」であった。