226.物まね失敗

黒氏    平野  晶平

  ある山家のもんが、里へ法事によばれたげと。行儀作法も知らんもんで、こりゃ行って皆んなに恥かくがでないかと心配しとったと。
  そしたら、そこに山の村の物知りの爺さま一人おって
「そんな心配いらん、わしのやるとおりするとよいし、ごっつおでりゃ、なんでもああおいしかった。結構やった」と言えばいいげと、言うたげと。さあご膳がでたので、あれ食べたい、これ食べたいと思ったれど、どうしてたべたらよいやら分からなんだと。
  その物知りのやるとおりしようと思ってじっつと見とったとそしたらつぼの蓋をとっつて豆を爺さまつまんで食べようとしたらコロコ口ところがいたとそしたら村のもんなそのまねして 豆をコロコロころがいては食べたと。こんつき爺さまがおへらの蓋をとつたられんこんが入っとったと
「よう上手に、いもをまめに穴をあけたもんじゃな」といってつまんでほめてみとったと。
「それまいもでなあて、れんこんちゅうもんや」とうちのもんが言うたが
「まあ、よういもに穴をあけたもんじゃ、いもに穴をあけたがを、れんこんちゆうがか」と言うたと。
  つぎに、そうめんがあったげと。どうして食べりやいいかなと考えとったら そうやそうや物知りの爺々やどうして食べるか見とりやいいわいと思って見とったら どうしたひようしか知らんが箸に少しつまんでぐるっと耳のところをまわして、そして汁をつけて食べとった。
ああ、ああして食べるがかといって、皆んな一すじつまんではみみにひっかけようとしても仲々うまいこといかん。 たいそして食べたと。そんな話、物知りの爺の言うとおりすればいいちゅうがと、何んでもほめればいいちゅ話や。
(大成351「首掛けそうめん」・通観337「ものまね失敗」)

(付記)

耳掛けそうめん

  愚か村話。「首掛けそうめん」ともいわれる愚か婚話の一つ。
  愚か婿が嫁の里に招待され、初めて見たそうめんなので、どうして食うものか分からない。仕方なしに箸をつけると、そうめんが長いので、
「これは長いもんだ」と言いながら首に巻きつけて食った。