225.たくあん風呂

新庄    稲垣  龍子

  昔、あるところにだらな兄んさがおったと。婿さうちあげに嫁の里へよばれにいくことになったげちゃ。
  そこで兄んか出かける前に親が、うちの兄んかだらやさかい、どんな恥かくやもしれんと思うて、色々と教えたと。
まますんで、お湯をのむ時は、熱かったらココ(たくあん)をもろて、これを湯の中でかきまわいて飲むもんやぞと教えたげと。
「分かった、ココを、こんながにまわいて飲むげろ、分かった、分かった」と言うたと。
  嫁さの家へ行ったら風呂をわかいてあって、
「兄んさまようきてくさんした。先に風呂へ入ってくさんせ」と言うたと。
「熱いかいね。どうやいね」と言うたと。裸になって入ろうとしたら熱つて入れんげ、
「アチチ、アチチ」ここやと思うて「たくあんくれー」というたと。兄んさま何にするがやらと思うたれど、だいじな兄さまの言うこっちゃさかいというので、たくあんを桶からあげてきたと。
そしたら、兄さまそのたくあんを風呂に入れて、ぐるぐるかき回いたと。やっぱりだらやなということになった。
(大成249B「沢庵風呂」・通観279「たくあん風呂」)

(類話)

黒氏    平野  晶平、平野  すず子    大槻    山崎  幸子    

「類話」

たくあんと謡曲

春木   小谷内  勝二

  だらな兄んさが嫁もろたげと。その嫁さはまた大変はしかいぎちゃ。兄んさ、うちあげによばれるがになったげ、こりゃうちの婿さんな恥かかにゃいいがと思うて、あんた飯の終わりにお湯飲む時熱かったら、水を入れてくれ熱つて飲まれんと言わんと、ご膳にオココが二切れ出っさかいに、熱い湯の中へ入れてまわすとぬるなるわいと教えた。また大盃がでたら、謡曲の一つぐらいは唄わにゃ、おらも恥ずかしい、ちゅうて嫁さ、何日もかかってたいそして謡曲を一つ教えたぎ。
  いよいようちあげということになって、わらじはいて行ったぎ、
「ようこそ、この寒いがに遠い所をきてくさったしちゅうて、足洗いのたらいに湯をはって出してくれたとい。さぁ、足を入れようとしたら湯あ熱うて、
「湯ぁ熱いわいや、たくあんもってきてくれー」ちゅうもんで、飯の湯の時にオココに冷やすがに嫁さが教えてあったがを・・・・
「あんたなんしたことを言う、こんな時や水持ってこいて言わんかいね」ちゅうて袖を引っぱたぎと。
  ところが、袖を引っぱったら謡曲を唄えと言うてあったもんで、今度は謡曲を唄い出したと。
  いかなだちゃかん婿ちゅうもんな、どこへむこわしてもだちゃかん、こんながを、便所の踏み板にすりや巾狭いもんの、漬け物の重石にしりや糞たれるもんの、なんちゅうなあ、と嫁さくどいたと。

(付記)

沢庵風呂

  風呂の入り方を知らないで失敗した愚か者の笑話。
  愚か婿が嫁の里へ出かけるとき、嫁が親が、先方で熱いお茶が出たら沢庵で冷やして飲めばよいと教える。ところが先方で熱いお茶を沢庵でさますまではよかったが、風呂に入って熱かったので、熱い湯は沢庵で冷やすものと早のみこみして、沢庵を持ってこさせてそれで冷やそうとして笑われ者になる話。