224.糸引き合図

瀬戸    池島  つや

  だらな兄んさうちあげに行くがになったげと。そこへ近所のもんやらみんな、どんなことする婿やらと思うて見に来とったげと。
うち出っときに、ちゃんとあいさつせにゃだちゃかんとか、いろいろ教えて、謡の一つも唄わにゃだちゃかんちゅうて教えたぎとい。
ほしたら、いつ唄えやいいかわからんちゅうたもんで、袖に糸をつけて行ったげとい。そして、嫁が糸を引っぱったら謡をやれと言うとおいた。
そしたらご膳に座らん先に、どこをどうしたやら、その糸がなんかに引っ掛かって、引っぱられたげと、そしたら兄さ、嫁さが引っぱったげと思うて、ご膳まえに謡をはじめたと。
(大成345「糸合図」・通観229「糸引き合図」)

(付記)

謡の合図

  愚かな婿の失敗する笑話。
  愚かな婿が祝宴によばれるのであるが、謡をうたうのにその折を間違えないようにと、あらかじめ嫁から袖を引くという合図をすることに約束する。
  ところが先方についた婿が、思いもかけないことを言ったりしたりするものだから、あわてて嫁が合図のことを忘れて袖を引っぱってそれを止めようとする。
  婿は謡の合図と勘違いして時ならぬときに謡をうたってしまい、一座の人々に笑われるという話。