223.馬の尻に柱かけ

末坂    三野  喜美子

  むかし、あるところにだらな兄んさがおったといの、嫁の実家の新築祝いに兄んさに来てくれというので行くことにしたげちゃ。
そやけど、どうあいさつしたらよいやらわからんもんで嫁に聞いたげと。すっと嫁が、家をぐるっと見まわして、柱に小さい節穴でもあったら、
「この節穴に釘でも打って柱かけでもかけたらよい」と言うて聞かせておいたと。兄んさ
「わかった、わかった」といって、いよいよ嫁の里へ行ったと。皆んな兄んさの来るのを待っとったわけや。そこへやってきた兄んさは、そこで聞いたとおり、ぐるぐる部屋を見回して、一本の柱に節穴をみつけたので
「この節穴に釘でも打って、柱かけでもかけたらよい」というと、この親爺さんや皆の衆は、あの兄んさだらやと聞いとったが、なかなか大したもんじゃ。と感心しとったと。
  気をよくした親爺は自慢の馬を見てくれと馬小屋へ連れていった。 ぐるぐる馬を見回した兄んさは、馬の尻を見て
「お父っつあん、ここにも節穴がある。釘を打って柱かけでもかけたらどうか」というたと。そこでいっぺんにだらな兄んさやと笑われたと。
(大成339「馬の尻に札」・通観289「馬の尻に柱掛け」)

(類語)

「馬の尻にソロバン」

瀬戸    池島  つや

「馬の尻に木の詰め」

末坂    三野  喜美子

(付記)

愚か婚話

  愚か婿が嫁の実家の新築祝いに行かねばならない。利口な嫁から教えられた挨拶をする。
床柱の虫喰い穴に釘でも打って短冊でも掛けておけばと言う。
  婿はまんざらばかでないとよろこんで、馬屋へ連れてゆき、馬を見せたところが、馬のまわりを周って、
「なかなかええ馬だが、尻の穴一つ開いている。ここへ釘でも打って短冊を下げておけばよい」と言う。
これで婿はやっぱりばかだということがばれてしまった。