219.ぐずの飯炊き

良川    千場  つき

  あるところに、親の法事をもうすがに、兄んかが、グズちゅう名前のおじに
「ご坊さまへ、法事の案内に言って来い」ちゅうて出いたげと。おじやご坊さまちゅうもんを知らんもんで、
「兄んか、兄んか、ご坊さまてどんなもんや」、
「さあ、ご坊さまて黒い衣着とってや」それからしばらく行くと、黒い着物をきたもんが道端におったので、だらのおじや、はあんこれだと思って、
「坊さん、坊さん、うちに法事もうすがで、今すぐきてくだされ」といった。だが坊さんはだまっておった。何べんも言うたら「カアー」と一声いった。そこで安心してうちへ帰った。
「おじ、おじ、どうやった」
「何度も言うたら、カアーと一声返事した、今来るやろがい」
「だらー、そりや、坊さんとちごうがい、カラスやろがい」と。もう一ぺん行ってこい
「白に黒い装を着とってやろ」ちゅうたら、おじのグズあ、こんた牛が道端におったので用件を言うたが「モウー」しか言わなんだとい。兄んか腹立てて、
「今度は、おら行ってくっさかい、わりゃ飯炊いとれ」ちゅうて出ていったもんで、ぐずあ飯炊いとった。兄が坊さんを迎えに出ているあいだに飯が煮えてきて、グズグズと音をたてまじめた。おじは笠の飯が自分を乎んでいるげと思うて
「ハイハイ」と返事をすれど、どんだけ返事しても
「グズグズ」ちゅうて呼ぶもんで、ぐずぁ怒ってしもて、ご飯に灰かぶして、背戸の竹やぶへ放ってしもたとい。
  そこへ兄んかがもどってきて、これを聞いたら仕方ないもんで、ご坊さまにドブ酒でも飲んでもらうことにする。兄んかがあまに上ってドブ酒を下すがに、「ぐず、瓶の尻持てやぁ」と言うた。母かの名前がカメちゅうげったもんで、母かの尻持っとったといね。
  兄んかあまにおって 「しっかり持たにやあ」ちゅうたら、母かの尻をしっかり持って、「持ったぞー」ちゅうたもんで、兄んか瓶の手を放いたら、ガチャンと瓶が落ちてわれてしもたげと。
  ドブ酒の瓶をわってしもたもんで、坊さんの接待はなんもできなんだ。
(大成333B 「法事の使い」 ・通観288「法事の使い」)

(付記)

ぶつの話

  法事の際に愚か息子が一連の愚かな失敗を繰り返す愚か者話。
  「ぶつ」という名の愚か息子が、法事に和尚を呼びに行き、黒い衣を着ていると聞いて、鳥に呼びかける。次に飯炊きを頼まれ、飯が「ブッブッ」と言って煮え出すとそれに返事をし、いつまでも音がやまないので腹を立てて灰をかまに投げ入れる。父親がせめて酒をふるまおうと、二階から酒の瓶を降ろそうとし、「尻を持て」と言うと、ぶつは自分の尻をおさえていたので、瓶は落ちて破れる。父親は仕方なく風呂をたき、和尚に入ってもらう。ぶつに湯加減を聞かせると、「何でも燃やしてわかせ」と和尚が返事をし、ぶつは和尚の衣を燃やしてしまうという話。
  @和尚を呼びに行く、A飯炊きの失敗、B瓶の尻と自分の尻を間違える、
C和尚の衣で風呂をたく。のモチーフからなっているのであるが、採集したものにはCの部分が欠けていた。