218.酒は酒粕

春木    小谷内  勝二

  貧乏で酒好きなある男が、じゃぁまから
「おまえや、酒買えや米買えんし、米買えや酒買えんし、ほんだけ飲みたけりや粕買うて食べや」といわれてから粕を食べとった。
  土方に出とって仲間に
「俺らいつもかも酒飲んどるわいや」ちゅうても人ぁ本当にしてくれんもんで、次にどういうたかちゅうと、
「俺ら、いつもかもきっついがは、おぞいもん食とらんわい。酒飲んどっさかいやわい」ちゅうたとい。そしたら仲間は、
「ほんとかいや、その酒どうしてやっとるがいや」ちゅうたとい。そしたら
「俺らあぶってやっとるわい」ちゅうて答えたら、
「それやぁ、我りや酒の粕食とるぎゃい、酒飲んどるがでないぎゃいや」ちゅうて笑われたと。それを家へ帰ってじゃぁまに言うたら
「そんな下手なことを言わんとけちゃがいや」ちゅうたら、
「ほんなら、俺らどう言えあいいがい」ちゅうたもんで、
「俺ら酒飲んではおるわい」こう言えや、ちゅうて教えたら、また仲間から言われたとい。
「今日あどうした、酒飲んどるがかい、飲んどらんがかい」ていわれ、
「俺らあ、今日はよけい飲んどらんがで、五合なで飲んどらんぎや」、
「本当に五合で飲んどらんがかい、どうして飲んだがい」ちゅうたら、
「目方で計ったわい。五百メやったわい」ちゅうたとい。粕を食べとることがバレて恥をかいた。またじゃぁまからそんな下手な目方で計ったちゅうさかいだめながい。
「五百メ食べたら五合と言へ、あぶって食べたらあつかんでやった」と教えられた。次の日
「三合やって、あぶって食った」といってまた仲間から笑われた。そういうことを言うさかいに、いつもカス男、カス男ちゅうて言われるぎゃい。
  もうちょっこし、はしかいがに言えちゅうていくら知恵つけてやっても、だちゃかんもんなだちゃかん。真性ながに言えんもんやと。
(大成332「酒の粕」・通観442「酒は酒粕」)

(付記)

酒粕食い

  愚か者が見栄を張りそこなう笑話。
  酒好きだがいつも思うように飲めない男が、酒の粕を食って一杯機嫌になり、人に聞かれて、酒粕を食ったのだと言って笑われる。
  女房に教えられ、こんどはほんとうの酒を飲んだと言うが、どのくらいと聞かれて、100匁と答え、化けの皮がはげる。
  女房にまた教わり、そのつぎは五合と言うが、かんをしてか冷やのままかと聞かれると、焼いて食ったと言う。