216.一、八、十の木木

良川    千場  つき

  だらな兄ん様が使いを頼まれて、ドッコイショの話といっしょや。使いに行く先の名前を書いてもろて出たけれども、読み方を忘れてしもうたもんで、道に出会うた人に呼んでもろうたら、一八十の木木(イチハチジュウノモクモク)やていうたれども、ちょっこしちごうみたいもんで、また他の人に聞いたら、「ヒラリン」やていうたとい。そしたらそれもちごうみたいやもんで、また他の人に聞こうと思うて歩いて行ったぎいと。
  昔や字を読める人あ少なかったもんで、平林ちゅう家へなかなか行かれなんだきいね。
(大成423「平林」)

(付記)

平林

  漢字の音訓と形態上の特色を巧みに利用した笑話で、愚人談に分類される。
  ある思か者が主人に平林という家へ使いに出されるが、途中で平林家という宇の読み方を忘れる。そこで通行人に尋ねると「へいりんか」と教える。次の人には「ひらりんか」、また次の人には「一八十の木木か」と教えられ、行く先がわからなくなるという話。
  平林の読み方は他に「へいばやし」「たいらのりん」「一八十のきーき・」「一八十のぼくぼく」などある。
  落語でしばしば演じられる。おどけたこと、間抜けたことをして人々を楽しませる。