204.蚊帳知らず

末坂    三野  喜美子

  むかし山の村の兄んさたちが京都見物に出かけたといね。はじめて宿屋に泊まったら女中が寝床をしきにきたげと。都ちゅうとこはめずらしもんばかりで、山の男たちやおるおろすることが多かった。
  女中が布団を敷いてから、蚊帳はここにおいとくから寝っときにつってくれと言って出ていったげ。しばらくたって疲れたので寝るかということになって、蚊帳をつろうとしたがつり方がわからない。きっと四角い入れ物にちがいないというので、四人の者に四隅を持たせ、 一人がそこへ飛び込んで寝るもんだろう、ということでやったわけや。
  四人の者は蚊帳の隅をもったまま一睡もせんで、皆蚊に刺されてふくれ上がったと。
(大成312「飛び込み蚊帳」・通観390「蚊帳知らず」)

(付記)

飛び込み蚊帳

  愚かな村話。蚊帳というものを知らない山家の者が上方見物に出かける。
  宿に泊まり、夜蚊帳が出されるがつり方がわからない。四人が蚊帳の四隅を持ち、他の者は上から飛び込んで寝る。四隅を持たされた四人は、一晩申立ったまま、蚊に食われるという話。