201.柱をとれ

新庄    稲垣  龍子

  山家に嫁さんもろがにさがいとったげと そしたらどうしても山家からもろわれで、里からいよいよ嫁さんが来るがに決まったと。
  山家の人らっちや皆集まって、嫁さんの来てのがを待っとったと。そしたら嫁さんが雨の降る日やったもんで蛇の目の傘をさいてきたったと。
山のうちやさかい下屋が低かろうお、あんな立派なもんさいてきたったが、とうてい入られんさかい、この下屋の柱を急いで切らにやならんといって、山の人らっちや皆して、「ワッショイ」、「ワッショイ」と下屋の柱をはずすがに切るやら、引っぱるやらしてやっとはずしてしもたと。
  ところが嫁さんが家の前まできたら、蛇の目の傘をすぼめてあいさつしたったもんで、里にはなんてりくつなもんがあるもんやなあと感心しとったと。
(大成302「床をとれ」)

(付記)

床をとれ

  村の人々が、言葉の意味をとり違え、そのたびにひき起こす愚行を笑う話。ある村へ代官が検見にやってきて、名主の家に泊まることになった。
タ食もすみ、寝るころになったので、代官は名主を呼んで、「床をとれ」と命じた。名主はびっくりして、せっかくお代官様をお泊めするために新築したのに、どうして床を取れと言われるのかさっぱりわからない。けれども命令とあっては仕方なく、大工を雇って、新築したばかりの床をのこぎりで切らせたり、まさかりでぶったりさせて、床板をはぎとり始めた。
  今度は代官の方がびっくりして、「これこれ、何をする」と言って床をこわすのをやめさせ、「床をとれとは、床を取りはずせという意味ではなく、寝床を敷けということだ」と教えたという話。「愚か村話」であるが同時に狡猜な面も備えた話といえよう。
  「長頭をまわせ」という話もよくある。