143.長者の万燈・貧者の一燈

良川    千場  つき

  春日神社へ行けば万の灯籠があるわいね、その中に今が日、一打だけ灯が消えんがいね、そういう事があって"長者の万灯より貧者の一灯"ちゅうて、春日神社が改築された時に奈良に長者が居ったぎい。それがでかい金持ちでその長者が灯籠を万燈寄附するぎいね。
  そこへいつもかも、親孝行の娘が助けてもろうたりなんだりしとるもんで、髪の毛を毛タボにするがに売って、そして小さい小さい一灯を泣いて寄附したぎい、貧乏な女の子がね、そしたらこんた灯籠ができて万の灯籠が一遍に灯が入って、奈良の殿様がそれを眺めるがに春日神社で御覧になるがになって来た時に、ゴオーッて嵐が吹いたら、その万の灯籠がピシャピシャ消えたぎゃけれど、その小んちゃい貧女の奉納した灯籠だけが風が吹けば吹く程ゴウゴウと燃えさかって、あの春日神社を一辺に照らいたちゅう灯籠があるわいね。
  貧女の一灯の真心が光ったちゅう事かね。