140.嫁おどし面
一青 兵部 キクイ
とんとむかし、婆さまと兄さまと嫁さまがおった。嫁さまがよう毎晩寺参りに行くげいね。ほしたら婆さまは、はがいしてはがいして、どうもならんもんで、昼間の仕事すまいてから、夜なべに粉を五升もひかせた。信心深い嫁さは、それをやあがらんと仕事に精を出いて、五升の粉をひき終ってから、お寺へ参りに出かけた。婆さまは、それがにくてどうもならなんだげちゃ。
「あれほどの粉を出しても、ちやつとひいてお参りに行きやがる。ほんならもっとひかせりゃ」と、それから一斗の粉をひかせた。それでも嫁さは仕事をかたづけては、お参りに出かけていった。
腹のおさまらん婆さまは、今夜こそと思うて、昔しの恐ろしい鬼の面があったがを出いてきてかぶって、白い着物を着てかって、帰り道の竹やぶにかくれていて、おせ夜をすまいて下向してくるのを待っとったら、嫁さ通りかかったもんで、鬼に化けた婆さまは、恐ろしいうなり声をあげて飛び出したと。
「かまばかめ、食らわば食らへ金剛の、信に歯が立つまい」ちゅうて、念仏もうして嫁さはとんとんと道を下っていったと。
そしたら、「あら、うちの婆ちやんなおらんなあ」「まさか、竹やぶであんなことしとるが、うちの婆ちやんでなかろうなあ」と思うたげと、奥の間にうん、うん、うなり声が聞こえるもんでみたら、婆さまが、面がとられんもんでじたばたしとったと。
「後世願いのおまえをおどかすがに面をかぶとったもんで、とれんがになってしもたぎい」
「おら悪かった。おらおまえをおどかいても、おまえや知らん顔して、ナムアミダブツ、ナムアミダブツちゅうて家へ帰って行ったもんで、仕方ないもんで、おらも家へ帰ってきたけど、家へきて面をとろうと思うて、何べんやってもとれんぎ、こまったあちゅうて泣くもんで、嫁さんは
「私とお寺へ行かんか」ちゅうて、いつも嫁さんの詣るお寺へつれて行って、坊さんの話を聞いて、ナムアミダブツ、ナムアミダブツと念仏申したら、面がポロンとひとりでとれたといね。
(大成398「肉付面」)
(類話)
黒氏 平野 すず子 十九日 守山 なつい 末坂 三野
喜美子 瀬戸 笹谷 よしい・池畠 つや
羽坂 長屋 よつ・打越 きくゐ・清水 ふさ 大槻 小蔵 きよ乃
(付記)
肉付き面
「日本昔話集成」では愚人談に入っている。嫁と始の葛藤を語る話。
姑が嫁をいじめる。夜なべ仕事をたくさん言いつけるが、嫁はその仕事を終えてからお詣りに行く。さらに多くの仕事を出すが、やはりお詣りに行く。
姑はにくさが増し、鬼の面をかぶって帰り道で嫁をおどす。嫁は恐れない。姑は家に帰り面をとろうとするがとれない。嫁は、面がとれるようにとお詣りに行く。そのお陰でとれるが顔の皮がついて行ったので肉付き面という。それ以来二人は仲よくなる。
寺詣りの話で、仏教的色彩が濃い。「吉崎の鬼面」として語られることが多い。