138.梵鐘に人身御供

川田    守山  裕美子

  お寺の梵鐘を造る鍛冶屋さんがいい音が出んもんで火の中へ子供を人身御供にして鐘をやくぎゃね、そうするとなんといい音色になるぎゃあといね。
  ある梵鐘鍛冶が鐘を幾つ造っても、幾つ造っても気に入るような音色が出んわけやね。そしてもうこんで梵鐘を造る商売を辞めるていうぎゃね。そこまで決心していうぎね。その人の姉でお嫁に行って子供を生んで出戻りしとる姉が居ったわけやね。その弟が自分の生涯の仕事やと思うて梵鐘造りをしとる嘆きを見て、なんとか助けてやりたいと思うわけや。そして自分は出戻りして来て世話になっとる身やし、子供も病気がちのがで、いつ死ぬかわからん子供を持っとるぎゃあね。ほしたらその弟が「これ以上どれだけ造ってもいい音色が出来ないていう事は、誰かを人身御供にささげなければ駄目のぎゃあ」ていうのや。でも「誰れが人身御供になってくれる。そういう恐しい事は出来ん」ていうぎや。
  ほうしっと姉が「じゃー私の子供は後いくばくもない命や、だから私の子供をささげる」ていうぎい。ほうしっと弟は辞退するぎいそれでも姉が「お前の為やから、これは神様と思って使ってくれ」ていうぎい。ほしたら姉の気持を受けて、その子供を鐘を焼く火の中へ投げこむぎい。ほうしっとその子供が"お母さん!"て叫ぶぎいて、ほうしっとそのお母さんな身も心も裂けそうになるぎい。
  そして弟も同じ思いになって、それでも心を鬼にして造り上げた梵鐘がなんとも言われん音色に鳴るぎいて。でもその音を聞くと、なんとなく"お母さん"と叫んどるような音色になるぎいて。ほっでその梵鐘を造ってこれで鐘は造らんちゅうて出家したぎいと。