135.天道さんの綱

川田    守山  裕美子

  昔むかし、子供が三人居て両親が亡くなって三人で仲よく暮しとったぎいね。そこへある日一人のお婆さんがやってくるわけや、そしてその家に泊めてくれ、何んでもしてやるっていうわけや、そうすると子供連は大変喜んでそのお婆さんを家に泊めるわけやね。
  そしていろいろ話をすると何んでも話をしてくれるぎい。けれども一番上の姉だけはこのお婆さんちょっとおかしいなって何んか不審に思う事があるぎゃあね。
  そやけど一番下の妹がお婆さんになつくわけや、そして夜る寝てからポキッポキッと音がするので二人の姉が覗いてみると、お婆さんが何かを食べているので、二番目の子が
「お婆さん何を食べている」て聞くと、今までに聞いた事もない声で
「ウーンお前も欲しいか」ていうもんで
「欲しいよっ」て言いったぎい。そしたらポンと投げて、くれた物を見ると指やったぎいね、びっくりして
「アッ指」っていうたら
「お前の妹の指や」て、そしたらもうその時は一番下の妹は死んでしもうとるわけや。ほしたらその妹はびっくりしてね、これはただ者ではないと思って二人は外へ逃げるぎいね。
  そして妹と姉が木の上へ姉が妹の手を引っ張って上るぎゃわ、そしたらお婆さんが木の下まで来て
「おりて来おーい、おりて来おーい」ていうぎゃ、ほんでも絶対におりんわけや、そして
「お婆さん、お婆さん、妹をどうして食べたぎい」て、そして
「あんたいったい何んや」ていうぎい。そうすると
「正体みたいか」ていうぎいね、そしたら
「正体を見たいがその先にお婆さんに頼みがある」で、
「何んやいうてみいして婆さんないうもんで、台所へ行って油を沸かして持って来て」て姉の子がいうと、
「よし、そしたらおりてくるか」っていうわけや、そして鍋に油を沸かして持ってくるぎゃ、そうすると上から綱を下して鍋を縛ってくれちゅうてひっぱり上げるぎやぁね、そして
「さあ正体を見せて!」って上の姉がいうぎいね。
  そしたらお婆さんな
「おりて来い」ていうと、
「正体を見せにゃ下りられん」ていうぎい、そうすると
「おー!おー!」ってうなって虎のような猛獣になるぎゃあね。そうすると姉の子が
「そら見た」ちゅうて木の上から油をザーッとかけるぎゃね。
  むやみに人を信用するなっていう事かね。
(大成245「天道さんの金の鎖」・通観155「天道さんの縄」)

(類話)

末坂    三野  喜美子

(付記)

天道さんの綱(姉弟と山姥)

  本格昔話の逃鼠談の一つで兄弟星ともいわれ、「ソバの茎は何故赤い」の由来談がつく。
  三人の子供たちの母親が山姥に喰われる。山姥は、母親に化けて家に来るが、子供たちは、手に毛が生えている。あるいは手がザラザラしていると言うて戸を開けない。山姥は小麦粉をつけるなどして再びやってくる。今度は声が違うと言って戸を開けない。山姥は砂糖水を飲んでまたやって来る。子供たちはだまされて山姥を家の中に入れる。夜、母親に化けた山姥は末子を抱いて寝る。母親が何か食べている音がするので、兄は「一つくれ」と言う。末子の指を投げる。兄弟は山姥だと知り、小便がしたいと言って外へ逃げ、池のそばの木に登る。山姥は追って来て池に映った影を見て、木の上の兄弟を見つける。山姥は「どうして登ったか」と尋ねる。弟は「油を塗って」とだます。兄弟は天から金の綱を降ろしてもらって天に登ったと。山姥も綱を降してもらうが、途中で切れてソバ畑へ落ちて死ぬ。山姥の血でソバの茎が赤くなった。