131.文福茶釜

末坂    三野  喜美子

  むかしある村にどんだけ働いても働いても貧乏な物売りの爺さまがおったと。いつも仲よくして餌をやつている狸に、お前にぜひたのみたいが聞いてくれんかというたと。狸は爺さんいうことならと思うて心好く返事をした。
「一体それや何じやい」というたら、
「狸や狸、おら貧乏していてお前にまいもんも食べさせられんようになってしまつた、お前一つ茶釜に化けてくれまいか」というたので、
「茶釜ならなんでもない」そういってすぐに茶釜に化けてしまったと。
  爺さまは風呂敷に包んで、寺の和尚さんの所へ行って
「和尚さま、和尚さま、こんなめずらしい茶釜を手に入れたが、安くしとくが買うてくれんやろうか」といって和尚にみせたところが、
「これはなるほどいい茶釜やいくらにする」といったので、まけて三両やというたと。和尚は三両は安いと思って爺さんから茶釜を買ったげ。そして小僧に、その茶釜を川へ持っていってよく磨くようにといいつけたといね。
小僧は言われたとおり、茶釜を川へ行って砂をつけてごじごし磨いたら、茶釜は
「小僧、小僧、痛いさかいあんまり磨くな」といったと。小僧はびっくりして飛んでいって和尚にそのことを話したら、和尚も川へいって砂で茶釜を磨いたら
「和尚、和尚、痛い、そっと磨け」といったげ。こりや不思議だ、小僧その茶釜に水をいっぱい入れて火をたいて沸かせやといった。火がだんだん燃えて熱くなってきたので、茶釜からぬっと狸が頭を出し、足を出した。小僧がびっくりしているうちに太い尻尾を出して逃げていってしまったと。和尚は物売りの爺に三両損をした。
(大成237B「文福茶釜」・通観116「文福茶釜」)

(付記)

文福茶釜

  狐や狸が茶釜に化けて、人間に恩返しをする昔話。ぶんぶくは茶釜の湯の沸く音からきている。
  旅の籠屋が困っている狸を助けてやる。(貧乏な爺が柴刈りに行く途中、子どもたちが狸を捕えているのを助けて、山へ放す)狸は釜に化けてみせたので寺の和尚へ売りに行く。和尚は一目で気に入り三両で買ったので爺は喜ぶ。
  和尚のいいつけで小僧が釜をごじごし磨くと、釜が「小僧痛いぞ、そっと磨け」といい、火にかけると「小僧、熱いぞ」といい、しまいに茶釜が尾を出し、足を出して和尚に、自分を見世物にしてくれと言うのでそのとおりにすると、大当りして和尚は大もうけをする。
  終りが、通観では和尚が大もうけをしているが、大成や三野喜美子の場合は和尚が損をしている。