130.天女の羽衣

良川    千場  つき

  むかし昔、三保の松原に漁師が居ってその日暮しに不自由しとったぎいと。そしてそれが子供のおらなんだ漁師やったぎいね。そしたらそこに子供が捨てちれて居ったぎいと。それは天から授かった天女のがで、その娘を育てておったぎゃれど、天へ帰らんならん寿命が決まっとるがかね。ある夜になったらしくしくと泣きだいて、どうしても居られんがでちゅうて、誰れも止められんがで、私は元は天人でお爺さん、お婆さんがこの三保の松原を掃除して居るがと、素直ながをみておったがで、あなたがたが子供を欲しがっとったもんで、私が天からおりてきて、今日まででっかいやっかいになったれど、寿命に制限があるぎゃあちゅうて、天女は海に千年、川に千年、山に千年のがで、その寿命がいよいよ来たから別れにゃならんいうて、羽衣を三保の松に掛けて、そして天へ昇って行ったちゅう事でね。その三保の松原のお宮さんへ行くと羽衣があるわいね。
(大成118「天人女房」・通観112「天人女房」)

(付記)

天人女房

  漁夫(木こり)が妻を得たいと神に祈願する。海辺で天女が枝に羽衣をかけて水浴しているの発見する。漁夫は羽衣を持って帰ろうとすると、天女が来て「天へ昇れなくなる」と泣く。漁夫はしかたがない「天人の舞いを見せてくれ」と言って羽衣を返すと、天人は舞って天へ昇った。