123.笠地蔵

瀬戸    笹谷   よしい

  むかし、むかし、あるところに、貧乏な爺さまと婆さまがおったと。二人は笠をつくるのを仕事にしとった。そやけども、もう大歳やちゅがに、銭もないし、餅もないもんで、爺さまは、
「婆さま、婆さま、おら町へ行って笠を売ってくるわい」ちゅうて、こしらえた笠を、五笠さげて出たぎ。
  朝から雪が降って、寒い寒い日やったとお。村はずれまできたら、地蔵様が六体おったったぎ。地蔵様の坊主頭に、雪やいっぱいたまっとるぎ、それをみて、
「寒いやろけど地蔵様、前を通らしてくだんせ」ちゅうて、爺さまは町へ行ったぎ。
  そして町へつくと
「笠やア笠、笠はいらんけー」そういって呼び歩いたが、あしたが正月という年越しの晩に、誰れも笠を買おうという者はいない。寒いもんで、戸を閉めてしもて、一笠も売れなんだげちゃ。爺さまの声もかすれて、とほとぼと歩いておったが、だれもふり向く者もなかった。
「婆さまに、雑煮の餅を買おうと思うて、出てきたがどうにもならんし・・・・」
そして、地蔵様の所へきたら、地蔵様に雪やいっぱいつもとだき、ずっと降り続いとる雪の中にだまって立っとての姿が、ほんとに寒そうやったぎ。
「お地蔵さん、お地蔵さん、寒いやろ、ちょうどここに笠があるさかい」ちゅうて、雪をはらって地蔵さまに、一つ、二つ、三つ、四つ、五つと笠をかぶせていったら一つ足りないもんで、あとの一つを自分の笠をとってかぶせた。
するとせいせいして、
「よかった、よかった、お地蔵さんも、いい年をむかえてくだんせい」そういって家へもどった。
「婆さま、今帰ったあ」「やあ、爺さま、笠はなんぼに売れたがいや」
「それがあー」そういって爺さまは、その日のことを細かく話したと。すると婆さまは
「そうか、そうか、今日は寒い日やった。地蔵さまも寒かったろう。そりやいいことをしてくさんした。おらっちや、魚たべんでも、雑煮たべんでもいいわいの・・・・。よかった、よかった」そう言うて、ふたりは早々と寝てしまったと。
  そして夜中に爺さま、小便しにおきたら、かいどの方で何やらざわざわしとったと。そのうちに声が近づいてきて、
  ヨイショ、ドッコイショ
  おじし起きて下され シャンシャン、シャン
  爺さま、こりや何じやろうかと、床の中でふるえておったがやと。そのうちに静かになってしもうたとお。
  婆さまが戸をあけてみたら、笠かぶった地蔵さまが行かれる姿がみえたとお。
  みたら入り口に、魚や餅やお金が積んであったとお。
  正直な爺さまと婆さまは、よい正月をしたということや。爺さまと婆さまはしあわせにくらしたといの。
(大成203「笠地蔵」・通観73「笠地蔵・来訪打出小槌型」)

(類話)

一青    土木  ミスイ    末坂    三野  喜美子

(付記)

笠地蔵

  善良な爺が地蔵から幸運を授かる昔話。
  貧乏な爺と婆がいた。正月の買物をする金がないので、婆の織った布、または爺のつくった薪か笠を、爺が売りに出かけるが売れない。自分の持っていた笠を地蔵にかぶせて帰る。米も餅もないままに、爺と婆は寝てしまったが、夜中に、地蔵が米・餅・金などを運んできた。そこで二人は、よい正月を迎えることができたという話。
  爺が地蔵に笠をかぶせること、お礼をもらうことの二つを柱にしている。