122.大歳の火

末坂    三野  喜美子

  むかしむかし、嫁さと意地悪な婆さまおったと。年がら年中火種を絶やさんとけと嫁さに厳しかった。ところがこともあろうに、大歳の晩やちゅがにだんだん火種が小さくなって、灰にいけてあった火種が今にも消えそうになった。意地悪な婆さまは嫁に
「元旦の朝迎えるがに火を消すな」といって炭箱をとりあげてしもうた。
  困った、どうしよう。戸まどったあげく、婆さんに気づかれんようにして隣りの家から火種をかりてこようか。それでも今夜はおそいしどうしようかと戸口でまよっていた。
  ところが向うの方から提灯を下げてこちらへ近づいてくるようなので、あらうれしやらと待っていた。ようやく家の前まで来たのは爺さんで重たい風呂敷包みを背おっていた。
「どうか爺さん提灯の火を少し貸してくだんせ」とたのんだ。すると爺さんは
「貸してもよいが何にするのか」とたずねた。今まで火種を絶やしたことがないのに今夜にかぎって火種がなくなって、明日の朝正月を迎えるというのに何としたことかと困っておるのでと、わけを話したら、
「火を貸してもよいが、その代りにこの包の中のものをもらってくりれりや貸してやる」といった。もらってもいいが何ですかい。とたずねたら、
「実はこれは死人で重たくて重たくて」と爺さんが言った。正月を迎えるのに火種にかえられないと思った嫁さは、その死人をもらうことにして提灯の火を借りて火をつくり、風呂敷包みを勝手の隅にそっと隠しておいた。翌朝、婆さんに内緒だったのでそっと勝手へいって、おそるおそる風呂敷包みを開けてみたら、どうしたものか重たい金仏様やった。婆さまは話を聞いて改心してこれから二人は仲よく暮らしたと。
(大成202「大歳の火」・通観92「大歳の火」)

(付記)

大歳の火

  大歳の火を守る女が、死骸黄金化によって富を得る話。
@火を消してはならない大晦日の晩に、嫁が囲炉裏に埋めておいた火を、意地の悪い姑が消す。朝になって火がないので嫁が外で泣いていると、裏山の八幡様に火が見える。行くと恐ろしい男がいて火と死人をくれる。姑が火を見て嫁に間うと、嫁はわけを話す。 本小屋に隠した棺を開くと小判があるという話。
A常に火を絶やさない大百姓の家に忠実な女中がいた。元日の朝火種が消えているので、困った女中が外を見ていると提灯を持った人が来る。火を貰う代わりに棺桶を預かる。約束の三日を過ぎても取りに来ないので主人に話す。主人が開けると小判が出る。主人は神様がくれたのだからとお宮の建立をする。女中が宮の建つのを見に行くと動けなくなり、神に祀られるという話。
  この二話の型がある。
  昔は火を守るのは主婦の役目だった。火は家の盛衰を司るとされ火種のやりとりは忌まれた。持に大歳には火を焚き元日には火を絶やさないとされた。大歳に神社の福火をもらって家の火とする地方もある。