121.大歳の客

川田     守山  裕美子

  昔しい、貧乏な爺さんと婆さんと居つたと、婆さんな
「爺さまや明日正月あー来るけれども食べる米も無いが、隣りの家へ行って借ってこうか」ていうぎい。
  そうしると爺さんな
「そんなもん借りに行かんでも婆さん、何んでも家にあるもんでいいがいの」ていうとったぎいと。
そしたらそこへ一人の汚い格好の坊さんが訪ねて来て
「一晩泊めてくれ」ちゅうて来たぎいと、それでお婆さんは
「お坊様この寒いがにようこそようこそ」と言って
「まあ家へ入らっしゃい、けれども家にはあんたに食べてもろう米一粒もないがや」て
「今、爺さまと隣りへ行って借ってこようかていうとったぎやれど、爺さまは借りんと何んでもある物を食べておこうていうがや」
「坊様、菜っぱが一つあるからそれでも良かったら、まあ家に泊まって行かっしゃい」てまあ、言うわけや、そうするとその坊さんは
「今隣りへ行ったら"お前のような者を泊める布団ども無いわい"ていわれたんでここへ来たのでどこでも良いから泊めてくれ」て、そして坊さんが
「婆さん釜があったら出してくれて」いうぎやね。そしたら婆さんな
「坊様、釜ども何にする、家には米ども一粒もないぎい」て
「まあいいから釜を出せしていわれ、婆さんが等を持って来ると、その坊さんな米粒か何んかくれて、
「これ洗って炊きなされ」ていうぎい、そしてそこへ菜つ葉を載せとけていうぎいて、婆さんは不思議やったけれども坊さんの言うとおりにして、三粒の米を洗って釜にいっぱい水を入れて炊いたぎいと、ほしたら御飯と一しょなにおいがして、ふき上ってしばらくおいて蓋を取ったら釜一杯に御飯が出来とったと、そしたらびっくりして
「坊様や有難や御飯一杯炊けた」ていうぎいね。
「そうかそうかそれやあよかった」ちて、そしてかって
「それで今夜は腹をふくらがせやあ明日正月を向えられる」て、そして
「おつゆがないとこまるのお」
「鍋を持って来い」て言われるもんで、お婆さんな鍋を出すと
「鍋の中にさっきの菜つ葉の残ったがあるやろ、その根っ子を洗ってここへ入れなさい」で、そして
「水をいっぱい入れて火にかけさっしゃい」て言うてやもんでお婆さんなその通りにするぎいて、ほいたらお坊さんな袋から粒のような物をパラパラと鍋の中へ入れたと、そして蓋をして火にかけてふき上って蓋を取ってみたらいっぱいいろんな野菜がグツグツ煮えとったて。
  爺さんもお婆さんもびっくりして目を丸くしたぎいて、そしてお坊さんを囲んで大変食べた事もないタ食になったぎいて。夜が明けたらその坊さんが
「タべお世話になったからあんた達の願いを何か聞いて上げる」て
「なんでも願い事があったらいうてみい」ていうぎいね。
「一つだけ叱えてあげる」ていうぎい。そしたら爺さんも婆さんも
「あと齢をとって死ぬだけやさかい何んも願い事あーないわいね坊様」ていうぎいて、
「そんな事はないやろ何でもいいからいうてみい」て
「ほんなら一つだけ言わさしてもらう、もし叶う事ならこの爺じも婆ぱも昔の若い齢にもう一度戻られたら戻って見たい」て、そしたら坊さんな
「よし」ていうて
「風呂を沸して二人で入って温まれ」て、お坊さんはいうぎね、それで爺さんと婆さんな言われるままに、風呂を炊いて二人で風呂の中へ入って温まったらいつの間にやら若い者になったぎやれど、自分達あ鏡がないもんで気が付かんぎいて、そして風呂から上って着物を着てお婆さんが水汲みに外へ出たら隣りの欲張り爺さんが
「おやまあー、お前はどうしたぎい」て、そしたら
「何んやったいね」て聞いたら
「いつの間にそんな若い者になったぎい」て
「ええっ」ていうて水鏡に写して見たら昔の若い者に変っとったて。
  ほしてお爺さんの所へ跳んで行ったらお爺さんも若い者になっとったとお。
「ああー、あのお坊様は自分達の願いを叶えてくれたぎい」そして周りを探しても、もう坊さんはその時はどこへ行ったか居らなんだぎい。
  お爺さんとお婆さんとして「これからもう一遍楽しい生活が送れるね」て喜んだちゅう、そんな話。
(大成199B「大歳の客」・通観87「大歳の客」)

(付記)

大歳の客

  大みそかの晩に汚い顔をした乞食が来て一夜の吝を乞うたが、家人は、そんな汚たないものは泊められないと言い、拒んで追い払う。
  乞食はごもっともだと言って隣家へ行って宿を乞うが、ここでは快よく泊めてくれる。翌朝家人が起きてみるとその人はおらず、その人のいたあとに金銀がある。神が乞食に変装して人間を訪問したそれから大歳の夜に歳徳様を祝うようになったと。
  守山裕美子の場合、呪宝として若返らせた話。