119.舌切りすずめ

羽板    長屋  よつ・打越  きくゐ

  むかし、むかし、爺と婆がおったと。爺は山へ木を切りに行って、婆は川へ洗たくに行ったと。帰ってみると、煮ておいた糊を、すずめが、ぺちゃぺちゃなめとる。婆は、もう腹をたてて、
「せっかく、洗たくもんにつけようと思うて、煮ておいたのに、このがきめが、みんななめてしもうた。チョン、こっちへ来い」と、いうて、すずめをつかまえて、 を切ってほうり出した。すずめは泣き泣き、飛んで行ってしもうたと。
  しばらくしたら、爺が山から帰って来て、
「チョンや、チョン」と、すずめを呼んでも、飛んでこんもんで、
「婆さまや、チョンを知らんかな」といったら、婆さは舌を切ったことを言うたと。そうしたら、爺はかわいそうになって、
「なんてかわいそうなことをしたがいや。おら、ちょいとすずめをさがいてくるわいや」と言って、杖につがって出かけたそうな。
  舌切りすずめはどこ行った
  あっちのやーぶにおらんか
  こっちのやーぶにおらんか
  チョン チョン
  といいながら、どこまでも歩いて行ったとい。
  だいぶん行ったら、川のところで、馬を洗ろとる人がおったもんで、そこで爺さんは
「あのう、ここを舌切りすずめが通らなかったかいの」とたずねたら
「おお、通った通った」と言うもんで、
「どらちへ行ったか、教えてくれ」とたのんだげと。そうしたら、
「馬の洗いじる、七桶飲まっしゃい。そうしたら教えてやるわい」と言うもんやさかい、爺は汚いけど、がまんして飲んだがやと。そしたら、その父とは
「この道、まっすぐ行かんせ」と教えてくれたと。爺はまっすぐ行くと、こんどは肥桶を洗うとる父とに出合うたがやと。爺はまた、
「舌切りすずめの宿を知らんかいの」と聞いたら、その父とは
「ああ、そこをもうちょつと行かっしゃい、竹やぶがあるわいの。そこがすずめの宿やわいの」と言うてくれたと。
「そうやけど、教えた代わりに、この洗い水を飲まな、通されん」と言うもんやさかい、爺はくさいのをがまんして飲んだそうな。それから、ちょっと行ったら竹やぶがあって、
  チンカラ トントン
  ギイコ バッタン
  と機を織る音がするがやと。
「舌切りすずめのお宿は、ここかいの、チョン、チョン雀のお宿は、ここかいの」と爺が言うと、機の音がばたんとやんで、舌切りすずめが出てきたそうな。
「チョン、チョン 爺が来たわいのお、おお、ここにおったか」と言うたら、すずめは喜んで
「爺さま、ようきてくださった。さあ上がって、まんま食べて、くさんせい」、と爺を中べ上げて、赤いおぜんに、赤いおわん、さあ、さあ、どんだけでも食べてくだんせと言うて、美しい着物を着て、チャンチャラと踊ったがやと。爺は面白うて、面白うて、知らんうちに時間がたってタ方になってしもたもんで、爺は
「すずめや、すずめ、ひどいごっそによばれたわいの。これで家へ帰るわいや」と言うたら、すずめは
「それなら、みやげにつづらをおますわいの。おめえさん、でっかいが欲しいか、小さいが欲しいかいの」と聞いたがやと。爺は
「うち、とっしょりゃさかい、小さいがでえいわいや」と言うて、小さいがをもろうてきたがやと。うちへ帰って、婆と開けてみたら、そしたら、まあなんと、出た出た。大判やら小判やら、宝物が山程でてきたがやと。
  婆は、それを見てけなるがって、
「うちも行ってくるわいの」と言うて、爺のとおりにして行ったと。
  途中、馬洗いにも、肥桶洗いの父とにも出合ったが、みんながぶがぶ飲んだと。
  すずめの宿についたら、舌切りすずめが出てきて、
「婆さま、なんでここへ来たな」と聞いた。婆は
「わしゃ、おまえに会いとうて、会いとて。ずいぶんおまえのめんどうみてきたし」と言うたそうな。
「それなら、お上り」といって、婆さんにごちそうした。婆さまは、せっせとかき込んだそうや。
「さあて、これで帰るか、おみやげないかな」そういうて催促したと。
「ここに、大きいつづらと、小さいつづらがあるが、どっちでも持ってお帰り」と言うたもんで、欲のふかい婆さは、
「うち、きついさかい、でかいがをくれや」と言うたがやと。
  婆は、そういって、大きい、重いつづらをしょって、よたよた出たそうや。婆は、重いのをこらえて歩いとるうちに、中が見とうなって、見とうなって、まあ、この重さじゃ、ちゅので野原にすわりこんで、ふたを開けたがやと、そうしたら、蛇やら、ムカデやら、なんやら恐ろしいもんが、ぞろぞろ出てきたもんで、婆さはおとろしいやら、気持ち悪いやらで、うちへ走ってきたとい。
(大成191「舌切り雀」・通観13「舌切り雀・試練型」)

「類話」1

舌切りすずめ

一青    岡島  ミスイ・北村  ふみ子

  むかし、お爺さんとお婆さんとおったとい。お爺さんな山へ行くし、お婆さんな、うちで洗たくしとったら、かわいがっとたすずめあ、洗たくの糊をなめてしもたぎい。ほんでお婆さんな、腹をたてて、すずめの舌を切ってしもうたぎい。すずめあ、泣きながら飛んで行ってしもうたとお。
  山から帰ってきたお爺さんは、かわいがっとったすずめやおらんもんで、お婆さんに聞いたら、
「なんちゅうかわいそうなことをした」と言って、さがしに出かけた。
  舌切りすずめは どこじゃいな
  舌切りすずめは どこじゃいな
  と言うてさがいて歩いたとお。
  爺さんは、すずめの宿をみつけたもんで、
「舌切りすずめ、どうしとるいなあ」と思ってきたと、話をしたら、すずめは喜んで、ごちそうなど、つくってくれて大変よばれたと。そして
「こんで帰る」ちゅうたら、すずめからみやげをやると言うて、
「つづらをでっかいがと小さいがと、どっちにする」というもんで、爺さんな
「おら、年寄りやさかい、小さいが」といって、小さいがをもろて、帰ったげといね。つづらの中には宝物がいっぱい入っとったとお。
  そしたら、婆さんも、きなるで、爺さんな小さいがを、もろてきたちゅうもんで、そんな小さいが、もろてくるもんなおるか、でかいがもろてくるもんじゃがい。と言うて、婆さんな、自分なすずめの舌を切ったことも忘れて、婆さんな、でかいがをもろてこうと思うて、でかけたとお。
  すずめの宿へついたら、
「婆ちゃんも来てくれたか」といって、
「さあ、さあ、上ってくれ」ちゅうもんで、ずけずけと上って、ごちそうがでたもんで、かほかぽ食べたとお。婆さんも帰ることになったもんで、でかいつづらと、小さいつづらと、どっちにするというもんで、でかいがもろてきたがやとお。
  そして、あんまり重たいもんで、道の途中にあけてみたら、中から大蛇やら、何やら、こわいもんないっぱい出てきたとお。
(通観12「舌切り雀・隣の爺型」)

(類話)

瀬戸    笹谷  よしい    大槻    山崎  幸子    良川    千場  つき    川田    守山  裕美子

「類話」2

舌切りすずめ

良川    山本  いと

  とんと昔あったといや。お爺さんとお婆さんと、山へ柴刈りに行っとって、すずめを山でつかまえて、うちへもってきたがやと。そしてかわいがっとったげと。
  ある日のこと、こんどは爺さんな山へ行ったし、婆さんな川へ洗たくにいっとったがや、そして婆さんなうちへきて、洗たくもん干いとっときに、ちょつと戸を開けたら、すずめや逃げていってしもたげとお。
  爺さんな、たき木をかついで、帰ってきて、
「婆さ、婆さ、すずめや、どうしとるいのお」ちゅたら、
「すずめや逃げていってしもうたあ」と言うたもんで、爺さんな
「なんしたことしたあ、おら、子供あおらんもんで、子供の代わりやと思うて、大事に育てとったがお」と言うて悲しがったとお。
「チュン、チュン すずめはどこ行った」
「チュン、チュン すずめはどこ行った」ちゅうて、手棒ついて、爺さんと婆さん二人で山へさがしに行ったぎちゃ、そして、ある山奥まで行ったら、チャン、チャン、キリリッツと機を織っとったと。そのすずめのところへいったら、すずめは爺さんと婆さんに、育ててもろたもんで、すずめは爺さんに長持ち、婆さんにたんすをくれたと。
  うちへ帰って開けてみたら、爺さんには宝物がいっぱい入っとったし、婆さんには、美しい着物がいっぱい入っとたとお。
  すずめが、かわいがってもろた、恩返ししたげね。
(通観14「舌切り雀・成功型)

(付紀)

舌切り雀

  五大おとぎ話の一つとしてよく知られている昔話。
  大別すると@明治以来国定教科書にのせられた型A爺や婆が雀を尋ねて行く途中に難題を課される型がある。Aの場合では、爺と婆が雀を飼っている。婆が煮ていた糊を雀がなめてしまったので、婆は怒って雀の舌を切る。かなしがった爺が雀を尋ねて行くと、馬子に出会い、馬の小便を飲んで雀の居所を教えられる。雀の家で爺は歓待され、良いものを小さいつづらにいっぱいもらって帰る。欲の深い婆が真似をする。土産に大きいつづらをもらうが、道の途中で開けてみたところ大蛇や化物がとび出した。
  教科書型は途中に難題がない。また「花咲爺」などは隣家の爺が真似をして失敗するのであるが、「舌切り雀」の場合は同一の老夫婦であって、婆が悪玉になっている。「類語2」、山本いとの場合は爺婆者夫婦が同行し成功型であるのが面白い。